コーポレートガバナンス・コードとは、コーポレートガバナンス(企業統治)の実現に向けて取りまとめられた原則であり、企業統治指針のことです。企業の持続的な成長の実現はもちろん、上場を視野に入れる企業の社内整備においても欠かせないものの一つといえます。
しかし、実際にこれを整備するとなった時点でコーポレートガバナンス・コードについて詳しい知見がなければ、実現は困難です。
そこで、今回は、コーポレートガバナンス・コードの概要、そして、自社内で整備を行う際のポイントについてお伝えします。
目次
コーポレートガバナンスとは、「会社は経営者のものではなく、資本の投下を行っている株主のものである」という考えのもと設置される、企業の経営を監視、監督する仕組みです。そして、コーポレートガバナンス・コードとは、その原則、指針となるものです。
2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦-」において、コーポレートガバナンスの強化が打ち出され、「持続的成長に向けた企業の自律的な取組を促すために東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを策定する」とされました。東京証券取引所と金融庁は「コーポレートガバナンス・コード原案」をまとめ、2015年6月にコーポレートガバナンス・コードが上場企業に適用されました。
コーポレートガバナンス・コードを特徴づける概念に、「プリンシプルベース・アプローチ」と「コンプライ・オア・エクスプレイン」というものがあります。
プリンシプルベース・アプローチは「原則主義」とも呼ばれ、詳細な規則を定めず、抽象的な原則をもとに各企業が個別に行動方針を定めるアプローチのことです。企業の行動を細かく定める「ルールベース・アプローチ」とは対照的な概念です。
コンプライ・オア・エクスプレインは、コーポレートガバナンス・コードを実施するか、あるいは実施しない場合その理由を株主に説明することを企業に求める概念を指します。コーポレートガバナンス・コードで示された原則はすべて実施すれば良いわけではなく、各企業の事情に応じて一部をあえて実施しない選択肢もあり得ます。コンプライ・オア・エクスプレインは、そうしたケースを想定したアプローチ手法だといえます。
また、コーポレートガバナンス・コードに似た概念に「スチュワードシップコード」があります。これは、機関投資家としてのあるべき姿を示した行動指針のことであり、2008年に発生したリーマン・ショックの反省を踏まえ、2010年にイギリスで制定されました。
スチュワードシップコードが機関投資家向けの指針である一方、コーポレートガバナンス・コードは企業に向けた指針である点で、両者は異なります。
「コーポレートガバナンス・コード」には次の5つが基本原則として明示されています。
以上、5点がコーポレートガバナンス・コードの基本原則です。注意点としては、コーポレートガバナンス・コードは遵守の義務はないという点です。つまりコーポレートガバナンスを実現していくうえで、必ずしもすべてを遵守する必要はありません。ただし、その際は、なぜ遵守しないかを株主やステークホルダーに伝える必要があることは覚えておきましょう。
コーポレートガバナンス・コードは、2018年と2021年に改定されています。以下が主な改定内容です。
報酬の基準や体系を明確化し、役員報酬の透明性を高めることが強化されました。報酬の決定プロセスにおいて、外部独立役員の参画や報酬委員会の設置が推奨されています。
取締役会において、多様なバックグラウンドを持つ人材の登用が推奨されました。特に、女性や外国籍、中途採用出身の取締役の適切な比率確保が重視されています。
独立性を確保するために、取締役と会社との間に業務委託などの関係がないことが求められています。プライム市場上場企業の場合は、独立社外取締役の割合を3分の1以上にするなど、独立役員の適切な比率を維持し、独立性の観点から評価が行われるようになっています。
企業の持続可能性に対する取り組みを強化するため、環境、社会、ガバナンス(ESG)の観点からの報告が求められています。持続可能性にかかわる自社の方針を示すとともに、企業の長期的な価値創造を考慮した経営が推奨されます。
株主とのコミュニケーションを強化し、意見交換の機会を増やすための取り組みが推進されました。特に、大株主との透明な対話が求められています。
遵守の義務がないとはいえ、コーポレートガバナンス・コードは一つの重要なガイドラインであり、これから上場する企業においては、コーポレートガバナンスの実現が鍵になっていくでしょう。その理由について説明します。
コーポレートガバナンスを実現すれば、株主やステークホルダーからの信頼性が高まり、それが結果として企業価値の向上につながります。また、企業価値が向上すれば、金融機関からの融資を受けやすくなり、既存事業の拡大、新たな事業への挑戦など次の段階に進んでいけます。
企業が不正、粉飾を行ってしまう原因はさまざまですが、そのなかでも大きなものとして挙げられるのが、経営層による企業の私物化です。そして、経営層が企業を私物化してしまう原因の一つとして、コーポレートガバナンスが正しく機能していないことが考えられます。コーポレートガバナンスの実現により、不正や粉飾をなくす効果も期待できます。
これから上場するといった場合、上場後には株主から投資を受けられるようになりますが、それだけで企業経営を行えるわけではありません。特に中長期で成長戦略を策定していくには、それに応じた資金が必要です。そのためには、株主からの投資以外に金融機関からの融資が欠かせません。しかし、当然ながら、企業に信頼がなければ金融機関の融資は受けられません。コーポレートガバナンスを実現し、企業価値を高められれば、金融機関からの信頼も得やすくなり、必要な融資を受けられる可能性が高まるでしょう。
コーポレートガバナンス・コードは法律や条例ではなく、あくまでも東京証券取引所と金融庁が定めたガイドラインという位置付けとなっています。そのため、遵守しなかったとしても懲役や罰金などの罰則が科されるわけではありません。
ただし、コーポレートガバナンス・コードを遵守せず、かつその正当な理由を説明しなかった場合には、東京証券取引所によりコードを遵守しなかった企業として公表される可能性があります。
コーポレートガバナンス・コードに対応するために、企業はどのようなポイントに注意すれば良いのでしょうか?2021年の改定を踏まえると、特にESG課題への積極的な取り組みを意識する必要があります。
近年、社会全体として環境問題の解決やコンプライアンス遵守が求められており、SDGs(持続可能な開発目標)も注目されるようになってきました。こうした中で、企業は純粋な利益追求だけではなく、環境や社会、企業統治に配慮した経営を推進する必要性が高まっています。
実際に、投資家が企業価値を測る際には環境への配慮が評価基準の一つとなっています。また、プライム市場上場企業においては、気候変動に関してTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、もしくはそれと同等の国際的枠組みに基づく情報開示が求められています。
今後も、EDG課題への社会的関心は高まっていくことが予想されるため、サステナビリティに関する取り組みをさらに推進していくことが重要です。
一般的にコーポレートガバナンスには、大企業だけが導入するものといったイメージがあるかもしれません。しかし、これまで説明してきたように、企業規模にかかわらず、継続的に成長していくためにコーポレートガバナンスの実現は欠かせないといっていいでしょう。特にこれから上場を検討している企業にとっては、株主やステークホルダーとの関係性を強め、企業価値を高めていくうえでも積極的に導入していくべきだといえます。
ただし、重要だからすぐに導入というほど簡単なものではありません。コーポレートガバナンスの導入をスムーズに進めるためのポイントは、コーポレートガバナンス・コードの基本原則をしっかりと理解し、正しく実践していくことです。
また、コーポレートガバナンスに知見を持った人材のスポット登用も効果的です。コーポレートガバナンスに知見を持った人材を活用すれば、上場を目指す企業の手間を軽減し、企業価値向上に大きく貢献することでしょう。
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