【新規事業】というテーマでのインタビュー企画 第6弾。今回は、エイベックスにアルバイトで入社し、副社長直下で新規事業を複数立上げ、子会社の社長までご経験した鈴木瞳氏にお話を伺いました。
(インタビュアー:株式会社パソナJOB HUB 加藤 遼)
目次
―鈴木様のご経歴を教えてください。
ソニーミュージックに入社し、2年勤めた後、経営コンサルティングの会社に転職。その後、エイベックスにアルバイトで入りました。エイベックスでは子会社の社長まで経験をさせていただいた後、独立して、現在は新規事業に関わるコンサルタントなどを行っています。
―エイベックスはアルバイトでご入社されたのですか!?
はい。エイベックスは、ソニーミュージックに勤めていた時から関わりがありました。若くて勢いがあり、アーティストのマネジメント権をもつプロダクション事業にも注力している会社だったため、とても魅力を感じていました。しかし、当時は会社の変革時だったため正社員の募集がなく、アルバイトであれば、とのことでした。当時24歳。若かったですし、チャレンジすることが大切だと思い入社を決めました。
―ご入社されてからどのようなきっかけで新規事業担当になられたのですか。
私が配属された部署はエイベックスの中でアーティストのライセンスビジネスを行っており、元々、プロジェクトの立上げを行う機会は多くありました。
ところがある時、決められた仕事のみをこなす部署に異動になりました。それから半年、正直やりがいを見いだせず、会社に「辞めます」と辞表を出したことがあるのです。すると、役員から「ちょっと待ちなさい。鈴木、俺に世話になってるよな?1年間私に恩返ししなさい!1年後まだ辞めたいと思ったら辞めていいから」と言われ、その役員のミッションとなっていた映像配信の新規事業プロジェクトにメンバーとして入ることになりました。
―辞表を出して新規事業プロジェクトの仲間入り!今までの鈴木様のご実績があったからだと思いますが、面白い経緯ですね。
ありがとうございます。与えられた仕事は何でも一生懸命頑張るタイプだったので、そこを評価していただいたのかもしれません。20代は特にがむしゃらに働いていましたから。
―新規事業で取り組まれた映像事業について詳細を教えてください。
その頃、エイベックスは映画事業に参入していましたが、苦戦していました。ようやくヒットした映画が出たタイミングで、映像事業により注力していくことになり、携帯電話での映像配信事業にチャレンジする話がトップから降りてきました。
―新規事業の内容が既に決められていた、ということですね。
そうです。“携帯電話での映像配信”という事業アイデアが既に決まっている中で、事業計画を立てていくところからスタートしました。ただ、当時はガラケー時代。着うた・着メロが主流の中で、携帯電話で映像をみることは想像できませんでした。また、容量などの問題で、最大でも約7分しか映像視聴はできない状態でした。その状況下でオリジナル番組を作ろう、という企画が立ち上がっていったわけです。
―それは…(笑)。
―どのように事業化を進めたのでしょうか。
まずはプロジェクトメンバーを集めるところからスタートしました。
3人からスタートし、「何か面白そう、やりたい」と興味を持ってくれた社員を集めていきました。
―やる気は大切ですよね!ただ「やる気はあるけどスキルはまだまだ」という社員の方はいらっしゃらなかったのですか?
いなかったと言ったら嘘になります。ただ、事業の立ち上げ時は大変なことも多く、マイナス思考の人はチームの雰囲気を悪くしてしまいます。大変な状況でも前向きに考え、不器用でもいいから頑張り抜く人が必要だと思いました。だから「何か楽しそう!」という気持ちがあればそれでよかったのです。
その後、サービス設計などのスキルが必要な分野についてはその道に長けている人にジョインしてもらいました。注力事業だったこともあり優秀な社員を役員が集めてくれました。各部署、優秀な社員は手放したくないですよね。どうしても保守的になってしまう。しかし、事業を拡大するフェーズで人が必要な時、それを担ってくれる強力なメンバーが必要です。この人的リソースの投資はトップが舵を取って行っていかないといけません。
―チームを立ち上げてから次のステップは何でしたか。
この事業を成功させるための最大のミッションは、携帯事業を行っている某大手企業との協業契約を締結することでした。エイベックスはレコード会社やプロダクションとしては強かったですが、携帯電話については無知です。そのためどうしてもその会社様の力が必要でした。何度も企画書を書き直して提出し、契約が決まった時は本当に嬉しかったです。
―その後は順調に進んだのですか?
いえ、もう一つ大きな課題がありました。反対する社員への説得です。
時代と共に世の中は便利になり、常識は変わっていきます。今では当たり前と思えますが、当時、時代の二歩先、三歩先を行く携帯電話での映像配信という考え方は、ネガティブな意見がとても多くありました。皆が想像力豊かなわけではないですからね。ただ、彼らの意見はとても貴重でした。
彼らの意見を基に課題やリスクを洗い出し、これらをクリアすることが事業を大きくなるヒントにつながると考え、丁寧に取り組んでいきました。結果、この事業は成功をおさめることができました。
―事業を成功させるために、その他に力をいれたことを教えてください。
私が特に力を入れていたことは「ユーザー(お客様)のことを徹底的に知る」ことです。
当時、携帯電話のコンテンツ市場は、男性ユーザーが多かったのですが、この事業は女性ユーザーの方が多いのが特徴でした。それは、私が女性だったからです。調査などは頑張ったものの、どうしてもそのサービスの男性の気持ちを理解しきれなかったのだと思います。結果的に女性ユーザーが多いことが特徴や強みになったんですけどね。
あっ!この事業に関して、一つ面白いことがありました。実は同じ事業モデルで別の携帯事業ともサービスを立ち上げたのですが、それはうまくいかなかったのです。
―同じ事業モデルなのに、かたや成功、かたや失敗!?それはなぜですか?
一言でいうと協業先との「相性」ですね。考え方や風土が真逆でもだめですし、似すぎていてもだめなのだと思います。
この経験から、私は事業の成功の一番の鍵は、“人”や“チーム”なのではないかと思っています。技術は日々進化していきます。技術的な強みはすぐ他社にも追いつかれてしまいます。そのため、個人のスキルやチームワークが最大の武器となり、ユーザーに喜ばれるサービスが出来上がるのだと思いました。
―個人のスキルアップのためにどのような環境が必要だと思いますか。
会社として、社員がやりたいことを全面的にバックアップする体制をとることだと思います。私は14年間、会社からお金をもらいながら勉強させてもらったと思っています。やる気を削がれることは一度もありませんでした。
上司の最大の仕事は、部下に仕事の希望を持たせることだと考えています。「この業務は本当に必要なことなのか?」と考え悩んでいる若手の社員も多いと思います。
そんな時「このステップを踏んだらどんな未来が待っているか、どのような可能性が広がっているのか」を伝えてあげる。若い社員が活気があると、会社全体も変わってくると思います。そのためには、経営陣や上層部がどれだけ権限移譲をして若手に新しいことをやらせてあげられているかが大切です。
これは会社の規模に関係なく重要なことだと思います。私はいろいろとやりたいことを発信するタイプだったのですが、「鈴木みたいに自由すぎる人が増えても困る」と社内で新規事業創出をサポートする制度の制度ができあがりました(笑)。
―鈴木さんがきっかけで新規事業立ち上げ制度ができたとは、すごい影響力ですね。他にはどのような新規事業を立ち上げたのですか?
お子様がいるママさん向けの事業を立ち上げたことがあります。社員が企画した事業が子会社化することはこれが初めてだったと記憶しています。
時代的にも、女性活躍の風潮があり、役員にプレゼンをしました。先程お伝えした通り、ユーザーのことを徹底的に知ることが新規事業立ち上げのポイントの一つだと思っているため、ママさん社員に声をかけて巻き込んで企画しました。結果、事業は好調で、最終的には子会社化することができました(現在は子会社ではなくエイベックス内の一事業として継続)。
そして、ママさん事業の子会社の代表を2年勤めて独立しました。
―挑戦が多い鈴木さん。今後はどのような挑戦をされるのでしょうか。
独立してからは、友人と新しい会社を立上げました。そして、今は大福屋を開きたいと思い月の半分は地元の福島で修行しています!
―大福屋ですか?
はい。夫から「心からやりたいことにチャレンジしてみたら?」と言われて、「やりたいことや好きなことって何だろうなー」と考えていました。
ある時、実家に帰って地元の大福屋さんに行った時、あまりに美味しすぎて衝撃を受けたのです。そのお店は跡継ぎもいなさそうでした。こんなに美味しい大福屋この世から消えてしまうなんて考えられない、と思い、食べて3時間後に弟子入りを決意しました。店主に伝えたらもちろん最初は断られましたが、説得を繰り返し、今に至ります。(笑)
―音楽業界から和菓子業界へ。鈴木さんの挑戦、お話を聞いていてとてもわくわくします。
ありがとうございます。一つのことを長期間続けてみないと分からないこともありますが、多くのことをやらないと見えない景色もあると考えています。飽きっぽい自分に対しての言い訳かもしれませんが(笑)。
失敗した時やくじけそうになった時は、「10割バッターはいない」と自分に言い聞かせています。チャンスが来た時にちゃんとボールを打てるように。挑戦することだけは辞めないようにしています。
―先程、一緒に働くチームや人は大切、というお話もありましたが、今後、鈴木さんはどのような人と働きたいですか。
ムードメーカーになってくれるようなネアカな人がいいですね。プロジェクトの空気感は立ち上げメンバーの性格や考え方に大きく左右されると思っています。
ビッグヒットが起きる時は強烈な反対も起こります。そんな時にチームメンバーで支え合い、明るい気持ちで乗り越えていけたらと思っています。
エイベックスグループ(avex group)にて数々のアーティストの音楽外収入の最大化に貢献。その後『BeeTV(現 dTV)』の初期スタッフとして事業立ち上げを行い、avexの売上中核事業となるまで成長に寄与する。自ら事業化したママ・子育てサービスを子会社化し、avex nico(エイベックス・ニコ)代表取締役社長に就任。
退社後にCtoCシェアリングビジネスのスタートアップ・株式会社ピーステックラボを立ち上げ、取締役COOとしてメインサービス「Alice.style」事業を牽引。
現在は、コンサルタント・顧問として、様々な会社の新規事業開発支援を行うと共に、自身での新規事業を準備中。