【新規事業】というテーマでのインタビュー企画 第4弾。今回は、日本電気株式会社(略称:NEC)、AgriTech事業開発室所属 海外大規模農場スマートマネジメントCropScope事業開発担当の渡辺 周(わたなべ しゅう)氏にお話を伺いました。
(インタビュアー:株式会社パソナJOB HUB 加藤 遼)
目次
―はじめに、渡辺さんの業務内容について教えてください。
「AgriTech事業開発室」という、全社の中の新規事業を開発する部門に所属しています。既存の製品や事業部には囚われない事業を開発するというのが大きな特徴ですね。2013年頃から活動し始めており、2015年から本格的に事業開発本部となりました。まだまだ新生の部署です!既存のエリアや既存のお客様の延長線上にあることはせず、新しいドメインで、新しいお客様に対して、新しい価値を提供することを目指しています。さらに、5年後に世の中に価値を生み出せるような事業をつくろうと動いています。
―NECのような大企業で既存事業に囚われない新規事業を立ち上げるのは大変そうですがいかがですか。
たしかに最初は大変でした。ただ、今はいい形になってきているなと思っています。自由度も高く、社内外問わずどこで事業を起こしてもいいんです!コーポレートベンチャーキャピタルの出資先として立ち上げるも良し、ジョイントベンチャーでも良し、うまくいかなかったら会社に戻ってきても良し、資金調達を外部からしても良し、社長として株式も個人とNECで入れて立ち上げても良し。どんどん自由度が高くなってきていますね。
―本当ですか?!すごい自由度ですね、大企業とは思えないです…!
企画の時点で、NECがやる意味がない、競合がすでにやっているなどの理由で納得のいかないストップがかかることはほとんどないですね。会社としても、100億円規模の事業を目指してほしいが、いきなり目指すことができないことを分かってくれていますし、新規事業を立ち上げる時に、最終的に大きな絵を描くことができれば、少しずつ人材も資金もついてきますからね。
現在はアイデアベースから実証段階、検討段階、ローンチ段階まで、すべて含めて20~25個の新規事業が動いていますが、私たちビジネス開発の部隊だけでなく、社内のエンジニア、デザイナーなど仲間が手伝ってくれるので、本当に何でもできますね。
―できないことがなさそうですね!
―渡辺さんが現在取り組まれている新規事業について教えてください。
NECでは、2015年頃からカゴメ株式会社と一緒に、農業の生産性や農業自体のバリューチェーンを改善していく農業ICTサービスを進めています。
作物の生育状態を衛生やセンサーなどで観察しながら、必要な水分量や養分をAI(人工知能)を使用し、最適な「生育モデル」をクラウド上に作ります。そこで計算されたものを抽出し最適化する、というサービスですね。作物の収穫量アップや管理工数の削減など効率化を目指しています。
次は、約5年間に渡りこの事業を行なってきた経験を活かし、て、ゼロベースで何かやりたいと考えています。新型コロナウイルスや様々な世界情勢の変化が起きる中、農業分野ももちろん日々変化しています。先を見据えつつ、どのような作物で、どのようなサービスを創造すると「よりおもしろくなるか」を考え、開発をしています。アメリカ、インド、ブラジルなど大きな農場を持っているところでやってみたいですね…!もちろん日本でも!
―これからどのようなビジネスが始まるか、楽しみです!
―渡辺さんが新規事業に取り組むようになった背景を教えてください。
日本の優れた技術を用いて社会課題を起点とする事業を開発したい、途上国に住む人々の生活を豊かにしたい、この2つを実現したいという想いが活動の原点になっています。
ただ原体験は実はないんです(笑)
それこそ、20代後半で、「自分のやりたいことってなんだろう」「自分が達成したいことってなんだろう」と個人のミッションを考えたんです。いろいろな本を読みましたが、登場する人物はみな原体験がありましたが、自分には見つかりませんでした。有難いことに、自分自身も自分の周りも困ったこともなく…。
その中で何が一番良いのかを考えたときに、大学時代のバックパッカーの経験や、父親や祖父が国に関わる仕事をしているのを見て、生まれた国で住・教育環境が異なることによる不平等を解消したい、大きく言うと「人を助けたい」と思うようになりました。そこで、途上国の開発、そこに住む人々の所得を増やすことが面白いのではないかと仮説を立てました。でも仮説を立てるだけは何も分からない、やってみなきゃ何もわからない、と思い、これを私の個人のミッションにしてみました。その後、インドで苺を作ったり、東北の農業ベンチャーの経営支援に携わる中で、「自分のやりたいことはこれだな」と感じました。
―「人を助けたい」というミッションの中でなぜ農業を選んだのでしょうか。
途上国の開発、生活向上のための課題は、農業・医療・教育のどれかだと思っていました。正直、目の前の人が幸せになる姿を見ることができるのであればどの事業でもよかったんです。元々、キヤノンでエンジニアをしていたのですが、その時は先端産業や半導体など、「豊かな人をより豊かにする」産業に携わっていました。規模は大きいですが、喜ぶ人の顔が見えにくいなと感じ、もっと生活に根差した仕事で社会に貢献したいと考えるようになりました。そういったことができれば、どの会社でもどのポジションでもよかったんです(笑)
ただ、自分の知識を十分に活かすことができるのは、まだまだIT技術、最新技術の導入が進んでおらず、経営やマーケティングの知識が求められる農業分野だと思い、この分野を選びました。
そのため、農業の経験があるというわけでは全くないです。本当にど素人です。農業技術の知識はですが、素人だからこそ、第三者的に状況を判断し、不足している知識を提供できることで、サービスをより良くしていくことができると思っています。ITの目線でサービスを開発すること、農家とのギャップを埋めていくこと、この2つ自分の役割です。
―未経験の分野は分からないことも多いかと思いますが、その中で新規事業を続けることができる理由を教えてください。
これまで8年、農業ベンチャーの立ち上げや経営を行ってきましたが、純粋に新しく事業を立ち上げることが楽しいんです!私の性格上、何かを生み出し、どんどん広げることが向いているのだと思います。チャレンジをしていく中で、新規事業が面白いと感じましたね。
その中で一つ大事にしていることがあります。新規事業をやることと自分のミッションである社会課題の解決のどちらを大事にするかと言われたら、「社会課題の解決」を大事にします。その中で、社会課題の解決の手段が新規事業なのであれば、事業化を目指して取り組みます。
常に、最終的なインパクトを考えていますね。仕事は個人でもできますし、一人で生計を立てることも、誰かを支援することもできますが、一人ではなかなか世の中に大きなインパクトは与えられません。自分のミッションを達成するためには、社会に大きなインパクトを与えることが必要なため、大きなネットワークの中で動いたら面白いと思い、NECで新規事業をしているんです。
新規事業の中身が大事なのではなく、自分が解決したい社会課題であれば、知っている分野、知らない分野関係なく、チャレンジができるのだと思います。
―渡辺さんにとっては新規事業を立ち上げる、ということよりも社会の課題を解決するという「自分の人生のミッション」が一番大切であり、それを達成するための方法に新規事業がある、ということですね。これは新規事業に関わる人だけでなく、社会人でも学生でも、誰でも大切な心掛けですね。
自分の確固たるミッションを掲げて取り組むと、周りがリスクだと思うことをあまりリスクだと思わないですしね。やりたいことをやっています。
―これまで新規事業を立ち上げていく中で失敗はありましたか?
失敗しかないですよ!(笑)
よくある失敗だと思いますが、一つは自分が面白いなと思った企画が通らなかったことですかね。その時は、なぜ会社は理解してくれないのかと思いましたが、今では、既存産業を「伸ばす」のではなく「次を見据えて広げていく」という視点や、大きな絵を描き、世の中にインパクトを与えるものを作りだすという考えが足りていなかったのだと分かります。
当時は、やってみないと分からない、やれば見えてくると思っていました。しかし、初期段階で先を考えることが必要だと気付いてから、考え込みに力を入れるようになりましたね。ただ長々と企画書を作るのではなく、最終形が大きくなることを意識して作るようにしています。
新規事業は意志がないと作れません。構想、空想でもいいので、とにかく大きなものを描いて、そしてそのストーリーに共感してもらわないとなかなか実現するのは難しいです。
二つ目は、周りの人の巻き込みがうまくできなかったことですね。新規事業を立ち上げた後の、周りの人の巻き込み方や、関係者への情報共有は本当に大事だと思います。正直、自分でやるのが一番はやいです。ただ、その代わり大きなものはできません。丁寧に伝える、共感してもらう、ということに時間をかけないと誰もついてきてくれなくなってしまいます。私は、一緒にいて共感してもらうことは得意ですが、ちゃんとした説明をちょっと遠い関係者にも、丁寧に伝える力がまだ欠けています。うまく進まないことはいまだにありますね…。
ちゃんと説明ができれば、人が集まり、そこから情報や資金が集まってきます。そう思うと大切なのはやはり「人」ですよね。
そこで次の壁が、巻き込む人への働きかけ方です。一緒にプロジェクトを進める人、その個人の成長を考えた時、この人にとって新規義業に関わることが幸せな道なのか、どのような働きかけをしたらプラスになるのか、プロジェクトのオーナーだと悩むんですよね。
特に、農業は他の産業よりも利益率が低く、利益が出るまでに期間もかかります。それでもみんな農業は必要不可欠だと知っています。そのため、金銭的なリターンに加えそれ以外のものを訴求しつつ、進めないといけないんです。執念がないとなかなか難しいですね。自分はやりたい、計画上は利益が出る、でも巻き込んだ人の人生を引きずり込む責任、いろんな人のお金を使う責任が大きくのしかかり、事業がうまくいかなくなったときにはすごく悩みます。ただそこで簡単に諦めるのではなく、多くの人を巻き込んでいるからこそ、諦めたくない気持ちが大きく、事業を進め続けることができているのだと思います。
やってること自体は正しいし、世にインパクトを与えられる、ということを信じて疑わないことですよね。「信じるしかない」というのが自分の最後の砦、崩れないところです。執念を持って事業を進めていくことが自分の役割であり、仲間に示すべき姿だと考えています。巻き込む人の人生や時間も考えて進めていきたいです。
―このご時世、事業開発頻度が高くなる中で、巻き込まれていく人の幸せを考えられるイントレプレナーがより重要になっていきますよね。
―渡辺さんのような人を会社で生むにはどのようなことが大切だとお考えですか?
「Will(意志)」と「スキル」、この2つが大切だと考えています。
ただし、スキルがあってもそこに意志がないとダメ。すなわちまず一番に大切なのは「意志」ということですね。
会社でも生きがいは何?ミッションは何?と聞かれること多いですよね。青臭く見える時もありますけど…(笑)ただ、そこで考えて、意志を持って、やりたいことがある人には、いろんな機会に触れさせてあげたい、触れてほしいと思います。
そのために一ついいなと思うのは、「転職活動をする」こと。あ、実際に転職するわけではないですよ!(笑) 転職活動のために必要な行動を起こす、という意味です。
学生時代、初めて社会に出る時、就職活動をしていた時は、自分のやりたいことを一生懸命考えたし、自分が何者になりたいかをすごく考えましたよね。しかし、就職したら考えるのをやめてしまい、やりたいことと違う、上司が気に食わない、と言って辞めてしまう人もいます。大企業で5年ぐらい働くと、なんとなくこれが自分の仕事だなー、と満足してしまう人もいます。
そこで、改めて自分を見つめ直す時間を設け、転職活動の時に必要となる項目をアップデートし続け、世の中における自分のポジションがどこにあるかを考えてほしいです。
「スキル」に関しては、「一人でも進めることができる力」だと考えています。周りはチャレンジする姿を温かく見守り、本人は失敗・成功の経験を積むしかないかなと思います。私も1人の時は、法務も人事もとりあえずやってみて、専門家に聞く、ということを繰り返していました。会社には良くも悪くもプロがいて、上司がいて、自分の責任がないことが多いですよね。頼ることももちろん大切ですが、一人でチャレンジしないと、度胸が着く機会も、スキルが身に着く機会も、失敗する機会もなくなってしまい、事業を進められるような人材は育たないかなと思います。
小さなプロジェクトを一つやってみる、ベンチャーにいって修業をしてみる、そういう経験をさせたほうがいい、したほうがいいと思います。
―転職活動…なるほど。たしかに就職活動をしていた時ほど、自分の将来やりたいことを考えたことはないですよね。一人で何かをやるという機会を設けると自然と「will(意志)」って生まれてきますよね。
―意志を持つことができる機会はどのように作ればよいと考えていますか?
そうですね…。でも意外とシンプルかもしれません。
本当にできるか自信がなくても自分がやりたいことを発信し続けることですかね。自分の周りに自分以上の人はたくさんいるから、と多くの方は委縮してしまうと思います。ただ、どんどん飛び込んでほしいです。やはり経験値を積まない限り、次のステップには行けませんから。どんどん積極的に発信して動くことが、機会創出につながり、さらに意志醸成につながると思います。
また私は、「緊張することがどれぐらいあるか」、自分を観察しています。緊張する時とは、初めてのことに挑戦する時や、自信がない時ですよね。緊張する回数が少ないということは、新しいことにチャレンジをしていない=成長していない状態だと思っています。普通に暮らしても、ゆるやかな右肩上がりの成長はしますが、150%、200%の成長にはなりません。それはまずいなと思ってほしいです。エネルギーはいりますが、自分が緊張する場面を作り出すように今でも意識しています。緊張する空間、時間を探して果敢に挑戦する、それを繰り返してほしいですね。
―たしかに私も最近は緊張する機会が減ってきている気がします。200%の成長のためにも、緊張する環境を作っていきたいと思います!
―最後に、渡辺さんが一緒に働きたい人と思う人はどのような人でしょうか。
自分とタイプが違う人ですね!
性格も仕事のスタイルも違うけど、見ている本当のミッションは一緒だという人は、自分にない何かを持っていると思います。同じタイプの人と仲良しクラブでやる方が気楽かもしれせんが、それは違う。事業開発というものはダイバーシティを持って進めないと、世の中に大きなインパクトを与えられないと考えています。そのためにも自分とスタイルが違う人たちを取り込んでいきたいです!
NEC AgriTech事業開発室所属
海外大規模農場スマートマネジメントCropScope事業開発担当
新卒でキヤノン(株)に入社し露光装置の光学設計や海外技術営業を10年間担当。2011年からNECにてコンサルタントとして従事した後、インドでのイチゴプロジェクトや農業ICTなど農業分野での新規事業企画や出資をおこなう。設立当初から参画した出資先の株GRAは執行役員として海外事業や新規就農支援事業などを展開し現在は顧問として支援。プライベートでは兼業として農業ベンチャーへの出資、アドバイザリー行う。趣味:乗馬