コーポレートガバナンス・コードが2021年6月に改定され、プライム市場に上場する企業においては3分の1以上の独立社外取締役の選任が求められています。
しかしながら、自社の経営や事業方針に合ったスキルや経験を有する適任者を探し出し、選任することは容易ではありません。今回は、東証一部上場企業のトップを務めた2名の顧問にご登壇いただき『企業価値を左右する新時代の社外取締役とは』と題し、社外取締役の重要性や適任者の探し方、選任時のポイントなどについてお話いただきました。
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東証での独立役員制度の導入が始まった2009年以降、社外取締役の数は毎年増加しています。さらに昨今のコーポレートガバナンス改革を求める流れを受け、社外取締役の数の多さだけではなく、そのあり方も問われています。
鶴丸氏は、社外取締役の在り方が問われている背景として以下の2点をあげます。
このような社会からの要請に応え、企業価値を向上させていく経営戦略において、社外取締役はCEOをトップとした執行側と一緒になり、企業価値を上げステイクホルダーへ報いる役目を担っている。(鶴丸氏)
同じく野地氏も、「社外取締役は、株主代表としての責任が大きい」とします。株主が要求するポイントは「企業価値を高めながら株価を上げること」であり、社外取締役はそのような要求に対し、企業価値を高める経営がなされているかを、株主に代わって見ていくことが求められているといいます。
事業を詳しく知っている方ばかりではないので、取締役会で議論する内容をまず理解いただくというのが執行役としての大きな責任となる。それはつまり株主の皆様への説明責任と同じことだ。社外取締役は株主を代表して事業を理解して取締役会に臨むことが重要だ。(野地氏)
横浜ゴム社では、2014年までは古河グループから2名の社外監査役を招聘していました。しかし株主総会前の信任投票で、グループ会社もしくは直接取引のある企業からの候補者だと信任率が激減するケースがあり、またコーポレートガバナンス・コード改訂の流れも鑑みて、新しく社外取締役を選定する流れになりました。野地氏は「独立性の担保のため、事業上でのお付き合いが無いところで候補者を探すことに苦労した」と当時を振り返ります。
一方ルネサスエレクトロニクス社では、現在取締役6名のうち社外取締役が5名。うち1名は女性、うち2名は外国人だといいます。この構成に至るまで必ずしも順調に進んできたわけではなく、模索して今の形になったようです。当初は、合併前の3社出身者で構成し、そこから徐々に社外取締役の比率や役割を拡大してきたといいます。選任にあたっては社内議論だけではなく、先進的な経営体制を敷いている他社の取締役の方々と話をして考え方を学ぶなど、試行錯誤してきました。また、コーポレートガバナンス・コード改訂との兼ね合いも随時チェックしたといいます。
野地氏によると、横浜ゴム社で定義した人材要件は3つあるといいます。まず、会社を好きになってもらえること。次に、自分は株主の代表だという自覚を持っていること。そして、第三者視点で取締役会を見てもらえることです。では、一体どのような手法でこれらの要件に合致するか否かを判断したのでしょうか。
野地氏によると、事業の細かい内容についての理解が浅い場合、時間をかけて現場を見てもらう、ということを行ったそうです。
業界が違うと、歴史も考え方のベースも基準も全く違うため、そこを少しずつ理解していただきたかった。また、都合の良い所ばかり資料として出したくなるので、数字の裏を読み解く力量を持った方を求めて選定していた。(野地氏)
続いて、独立性を担保した人材の選定を、両社はどのように進めたのか、お二人に伺いました。
自社のネットワークで声をかけた人もいるが、探せない人もいる。そのためにも多様な人材を紹介できる人材紹介会社を活用した。(鶴丸氏)
求める人物像や要件について念入りにデイスカッションし、議論を進めながら、幅広く紹介してもらえる人材紹介会社を選定すべきだといいます。また、人材紹介会社によってデータベースも様々なので、選択肢は多めに用意することがオススメなのだそうです。
一方野地氏は、「会長や社長の知人経由では独立性の担保が難しく、一番良かった手法は料亭女将の紹介だった」といいます。女将は、人柄と自社の相性を見た上で打診をしてくれるため、前述した人材要件に合致していることが多かったようです。また、女性且つ外国籍の社外取締役を探していた際には、買収先の外国籍CEOを取締役に迎え入れた経験もあり、グループ会社全体の中から選定するのも一手だと語ります。
就任する株主総会から逆算し、社外取締役候補者はいつ頃から選定し始め、確定されているべきなのでしょうか。
鶴丸氏は、十分な準備期間が必要だと言います。
就任の6か月から10か月ぐらい前から人選を始めるスケジュールが妥当。予期せず断られることもあるため、余裕を持っておいたほうが良い。指名委員会を経て取締役会でも何回か報告が必要になり、また、株主総会で議題を提案する時期もあるため、そこから計算するとあまり時間がない。(鶴丸氏)
「新任の場合、現在の業務との調整を行う必要があり、万が一就任までに調整がつかない場合はお断りされる、というケースも想定されるため、初めてなら1年半の準備期間は必要なのでは(野地氏)
社外取締役のニーズは高まっており、早めに候補者選定を進めていくことが良さそうです。
野地氏は「形の上では賛成だが、実際には難しい」と回答しました。指名委員会では通常長いスパンをかけて中期計画や年度計画等の議論を進めるが、指名委員会委員長を外部の取締役とすると任期が1年間となり、短期的な視点になってしまう恐れがあることが理由です。独立性を保つためにもこのような動きは少しずつ進めるべきですが、1年任期の中でどう進めるのかは想像がつかない、といいます。
「社外取締役として経営の軸を変えるような大きな革命は、母体を崩す恐れがあるため、起こすべきではない」と野地氏は話します。そして「社風が合うかという観点よりかはその会社を好きになってもらえるかが重要だ」と続けました。その会社に興味を持った株主が株を買ってくれるため、その代表としてまず会社を好きになってもらうことが大前提になるといいます。
鶴丸氏も、社外取締役が会社を好きにならないことには上手く経営が進まない、という意見には賛成だといいます。執行側のCEOと一緒になって日々苦労を分かち合いながら議論を進めていく土台が重要だそうです。
もちろん社外取締役には、自社で欠落している新しい視点で会社を見てほしいため、ビジネス書によく書いてある「創造的破壊」を巻き起こすような人材も必要だと考えている、と語りました。
最後にお二人から、社外取締役選任を進める企業に向けてご意見をいただきました。鶴丸氏は、まずは社外取締役候補になりうる多様な人材を集めることから始めることが重要だとします。自社で持っているネットワークに加え、人材紹介会社に広くお願いし、母数を増やすことが必須のようです。
ここで問題になるのが、候補者は集まったものの自社でどう議論を進め、評価をするべきか、という点です。
最終候補者の選任まで済んだ後、改めて第三者のリファレンスを依頼することが、自社の不安を払しょくするうえで有効だ。(鶴丸氏)
複数の質問に対する第三者の見解が、自社が社外取締役を選考するうえで重要視していることと合致しているか。これが自社で行う360度評価における一つの助けになるよううです。
一方、野地氏は次のように意見を述べました。
同じような業界から社外取締役を専任したとしても、成り立ちが違ったり、使用している言葉も違ったりと、最初の会議で会話が通じないこともあったため、まずは標準語に直して、同じ土俵に立つことが大事になる。そして実際に現場に行ってみてもらうことでだんだんとイメージを持っていただき、議論することが必要なのではないか。(野地氏)
また最後に、「事業や経営において失敗したことのある人材は貴重だ。失敗を回避するためのノウハウは経営において重要であり、会社と一緒に成長できる人を選定してほしい」と締めくくりました。