新型コロナウイルスやデジタル技術の発展など、社会環境が急速に変化する今、ビジネスモデルの変革や事業転換を迫られる企業が増えています。そのような中、昨今注目を浴びている職種が「PMM(プロダクトマーケティングマネージャー)」です。企画~開発~マーケティングまで、事業の全体像を把握しつつ、「PM(エンジニア等の開発側の責任者)」と連携しながら事業開発を推進する、ビジネス側の責任者となります。
今回は、現役のPMMにご登壇いただき、事業開発を成功に導くコツについてお話しいただきました。
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新規事業に注力する企業が増えるなか、事業立ち上げ時や展開のタイミングで失敗・撤退するケースも多く見られるといいます。新規事業の立ち上げを多く経験する溝口氏は冒頭からこう語ります。
成功は決して簡単ではない。発案してから黒字化に至るまでの割合は、全体数から見て限りなく小さい。特に、何を作るのかという点に注力してしまい失敗するケースが多く見られる。誰の課題を解決するか、その課題を持っている顧客がどの程度いるのか、そしてそこにマーケット的なポテンシャルがどの程度あるのか、これらをどれだけ見つけられるか。これらが新規事業において重要になる。(溝口氏)
では、いかにして成功確度を高めるべきでしょうか。溝口氏によると、「これさえやれば成功する」という魔法は無く、「できるだけ失敗する可能性を減らす」ことが大切であり、以下3点を意識することが大事とのことです。
「事業仮説の設計」について溝口氏に聞くと、例えばよくある失敗例として、事業オーナーの体験や思い込みが強過ぎてしまい、システムやサービス仕様を検討する際に顧客についての話題が全く出ないケースをあげました。オーナーの仮説が合えば奇跡的に成功する可能性はありますが、大体は市場に顧客無し・ニーズ無しで、想定した結果が得られず失敗してしまうそうです。そのため、新規事業をより成功に近付けるためには、まずは対象顧客の声がとても大切だ、と溝口氏はいいます。
このような考え方のポイントが、新規事業を成功させるためのコツになるようです。
例えば営業活動ソリューションを提供している企業であれば、業界によって営業フローが変わります。そのため各業界にインタビューを実施し、営業フローを書き起こした上で、そこにどのような課題があるのかを見つけ、自社のどのようなソリューションであれば顧客の課題を解決できるのか、を設計していきます。
思いがあることは大事だが、事業仮説が曖昧であると本質的ではないジャストアイデアで止まってしまう。思いにも疑いを持つと良い。(溝口氏)
また溝口氏は、ターゲットとする課題に対する見極めも大切ともいいます。
「あると便利」な程度なのか、「お金を払ってでも何とかしたい」と思われる課題なのか。例えば自分がターゲット顧客であるならば、自分がお金を払って解決したい課題でなければ、当然他の人も利用することはないでしょう。最近はテクノロジーの進化が早く、モノやサービスを作り上げる難易度は下がっています。その分、課題をしっかり見極める事が重要ということです。そして、だからこそPMMというポジションが注目されているのでは、と分析します。
仮説設計の次は仮説検証です。しかしここでも、次のような失敗ケースがあるといいます。全員がモノを作り上げることに意識を傾けてしまい、立てた仮説が果たして正しいのか疑うことを、全く誰も考えていない状態に陥ってしまうケースです。
事業オーナーは過去の経験や強い思いを持っているが故に、それが正しいと思い込みがちである。思い込みに対して投資を行っても、期待された回収を得ることは難しい。だからこそ検証する、ということを徹底的に意識することが重要だ。気付けば大規模システム投資の話になってしまい、もう後戻りが出来ない、といった状況はよくあるパターンで注意しなければならない。(溝口氏)
上記のように、必ず冷静に一歩振り返って検証するステップを入れることが大切なようです。
最後に重要となるキーワードは、「MVP」です。これは顧客が求める必要最低限の機能を実装させ、世に出していく開発手法をいいます。本当に今やるべきことを事業オーナーが見極め、サイクルは小さくかつ早く回し、最短距離で検証を行います。
なぜこれが大切かと言うと、意思決定者がジャストアイデアで現場に指示をすると、やるべきことが増えてしまうからです。こうなると仮説検証をする上で、本当に必要なマスト要件がどれか、見極めができなくなってしまうようです。
新規事業はスピードが大切。この機能もあった方がいい、という部分は次フェーズに回し、余計なものはそぎ落とす。出来るだけ筋肉質になったプロダクトに仕上げて世に出すことで、素早く検証を行う事が成功への近道だ。(溝口氏)
新規事業の成功への近道はこれだけではないですが、以上の3点を意識するだけでも、成功確度はぐっと上がるようです。
一方で、新規事業を成功に導くための組織体制には、いかなるポイントがあるのでしょうか。
新規事業はそもそも、パッションのある少数精鋭でスピーディに動き、より多くのステークホルダーを巻き込み、事業仮説を立て形にしていくものだ。(溝口氏)
そのため、①新規事業に対する熱意、②社内外のネットワーク構築力、③KSF(KeySuccessFactor。事業業を成功させるために必要な要因。)を実行するための能力と知識、この3つの要素を持つ人材が必要となるそうです。しかし、これら全てを持ち合わせるスーパービジネスパーソンはなかなかいないため、メンバーそれぞれの強みを寄せ集めて、組織を作ることがポイントになります。
では、いかにして上記のような組織を作ればよいのでしょうか。まずは、チームのケイパビリティを見極めることだ、と溝口氏は語ります。
プロジェクトオーナーは、やるべきことに対して現状の組織であれば現実的にどこまで可能なのか、一方で何が不足しているのか、これを正しく把握する必要がある。(溝口氏)
新規事業は難易度が高いため、一定のスキルや経験を持った人材が必ず必要となります。しかし、売り手市場な昨今は優秀な人材確保は厳しく、人事や採用担当に依頼しても思うような結果が出ないことの方も多いのが現状です。
そこで溝口氏は提案します。
現在は働き方も多様化しており、業務委託として副業人材などがプロジェクトに参画し、高いパフォーマンスを発揮しているケースも増えている。業務委託で外部人材を活用することは、リソースを補充する意味で大変重要な打ち手なのだ。(溝口氏)
また、外部人材の活用は収支上もメリットがあると溝口氏は語る。
社員採用は固定費を増やすためP/L悪化につながるが、外部人材は期間限定で必要な経験や知見を充てられるため、リスクを極小化した状態でリソースを強化できる。(溝口氏)
とは言えども、外部人材の活用について社内で否定的な意見が出る企業もあるでしょう。実は溝口氏は、顧問として弊社に登録する以前は、新規事業を作る企業側として、弊社の顧問ネットワークサービスを活用していた側でもあります。当時の溝口氏は、どのように外部人材の活用において社内コンセンサスを得たのだろうか。
私が社内で外部人材の活用について稟議を出した際、強調したメリットは2点ある。1点目はプロジェクトの成功確度が高まる、という点。次に、一緒にプロジェクトとして動く社員の育成にも繫がるという点だ。当時は社員の成長が鈍化していた為、高いスペシャリティを持った人材とプロジェクトを進める事で、様々な知見をスピーディに吸収出来る機会を与えられる、という点はとても響いたようだ。人材育成面でも顧問など、外部のスペシャリスト活用は、とても良い影響を与える。(溝口氏)
ただし外部人材を活用する際の注意事項もあるようだ。
必ずその外部人材への期待値をすり合わせることが重要。これができていないと、ふわっとジョインして、何となくウィークリーミーティングをし、何となく活動も終わってしまう。外部人材活用の際には、彼らに対する期待値やゴール・役割を明確にすることが重要だ。(溝口氏)
また、外部人材の活用時には、セキュリティや規約の面をクリアにすることや、外部人材も社員と変わらないパフォーマンスが発揮できる環境を用意することも忘れてはならない、と溝口氏は付け加えました。
新規事業はすぐに売上に直結することが少ないと言われています。では、売上目標以外でKGIやKPIはいかに設定すべきか。
この新規事業はどの程度で黒字化させる予定だ。だからこのような売上計画を予定している。そしてこの売上達成のための先行指標とKPIを設定しチームで追う。ただし自社の事業に合った形で目標を設定することが大切で、設定した指標を全て追う必要は無い。どのKPIを上げればKGIが増えるのかという、キーになるKPIを探すことがポイントだ。(溝口氏)
溝口氏が顧問として支援に入る場合、最初は新規事業をどう進めるべきかという、戦略面での壁打ちから入るケースが多いそうです。そこである程度方針を固め、実際にモノを作るフェーズへのアドバイスへと移行します。
溝口氏は最後にこう語りました。
新規事業のフェーズによって必要とされるものは変わる。新規事業オーナーにとって大切なことは、今は何が必要かを見極めること、そして適切なポイントで外部人材を活用するという選択肢を持つことだ。少人数で難易度の高いミッションに取り組むことが新規事業であり、成功は容易ではない。より成功に近づくためのチャレンジできる組織を整え、本当に必要な要素や人材を取り入れていくことが、新規事業を成功に導くポイントだと考える。(溝口氏)