コーポレートガバナンスをめぐる取組み強化が加速する中で、近年は社外取締役の選任や取締役会の活性化に課題を抱える企業様からのご相談が増えています。今回は、社外取締役の選任によって、独立性の担保やダイバーシティの確保、更には取締役会の活性化にも注力されているフォスター電機の代表取締役CEO成川敦氏と、現任の社外取締役である中条薫氏に、社外取締役設置の影響や効果も含め、その取組みのポイントをお話しいただきました。※2022年11月9日のセミナー内容となります。
目次
一連のコーポレートガバナンス改革の動きを経て、日本企業における社外取締役の重要性はより高まっています。外部の視点で経営を監視し、透明度の高い企業統治を実現する、中核的な役割が期待されているからです。
2022年現在、80.4%の上場企業では取締役の3分の1以上を、12.1%では取締役の過半数を社外取締役が占めており、ほとんどの上場企業において、社外取締役の設置は既に常態化していると言えます。加えて、2009年の独立役員制度創設以来、より独立性の高い「独立社外取締役」の確保も求められるようになり、現在では、上場企業の社外取締役の95%は「独立社外取締役」となっています。更に、「女性社外取締役」への注目度も見逃せません。企業価値向上のためのダイバーシティ推進の流れで、女性を社外取締役として選任する企業は増え続け、複数企業の社外取締役を兼任される女性も増加しています。
こうして、日本企業の取締役会における社外取締役の数と比率は年々上昇し、取締役会の実効性の面からも、社外取締役は欠かせない存在となっているのです。
―社外取締役を設置した背景から教えてください。【成川氏】
弊社は1949年の創業以来、音に関するあらゆる製品を製造する音響機器メーカーですが、現在大きな転換期を迎えています。
主力の車載スピーカー事業は、幸い堅調に推移していますが、ビジネスを取り巻く環境が急速に変化する中、次世代の主力事業の開拓が、喫緊の課題となっているのです。当然そのための取り組みも進めてきましたが、新事業の開拓には、会社や社員の思い切った意識改革の必要性も強く感じています。ならば、まずは社長の私が本気になって変革を成し遂げなければならない、という思いで、社長を監督・選任する立場として、弊社の未来を真剣に討論できる方を社外役員に迎え、経営に参加して頂こうと考えました。そして、真の変革を目指すのであれば、自分たちの知る範囲の人脈では限界があると考え、弊社が真に必要な方を探すお手伝いを、パソナJOBHUBさんにお願いした、という経緯です。
―何名かの候補者の中から、中条氏に就任を依頼した決め手はどのようなところでしたか?【成川氏】
社外取締役選任に際しては、「研究開発力の強化」、「DXの推進」そして、「女性活躍推進」の3点を意識しました。中条さんは前職でAI事業の本部長としてDXを推進した経験をお持ちでしたし、女性活躍推進の分野でも外部講師を務められるなど、弊社が今後強化したい分野の専門知見を有する、まさに必要な方でした。更に、社外取締役には「忖度なく厳しい目で執行を監督し、積極的に提言頂く役割」を期待していましたが、中条さんとお会いした時に、この方ならばその期待に応えていただける、と確信したことを記憶しています。
―社外取締役の設置以降、取締役会にはどのような変化がありましたか? 【成川氏】
大きく3つの変化がありました。
中条さんが就任されてから、取締役会で扱う議題の量が増え、質は濃くなりました。更に、現任役員からの提言も活発化し、審議の決定前の助言、執行における定期的な監督、執行後のモニタリングという一連の流れが定着化したことは、とても大きな変化です。取締役会の時間も2時間では足りないため3時間に延長しました。社長としての私の負荷は正直増えたのですが、その分以上の効果は出ていると思います。
―社外取締役としては、日頃どのようなことを意識されているのでしょうか? 【成川氏】
大きく3つのことを意識しています。
社長はじめ取締役会、執行役員の皆様の想いや考え、行動の背景をできるだけ想像するようにしています。
建前や理論ではなく、執行役の方々がやってみよう、行動してみよう、と思えるような、心に届く実践的な発言を心がけています。
「外部からの監視の目」という独立役員としての役割を果たす一方で、フォスター電機の一員として「会社を愛する目」も持ち、両者のバランスをとることを心掛けています。
フォスター電機は、成川社長をはじめ取締役会の皆様、事務局の皆様も、本当にオープンなマインドで私たち社外役員の意見も取り入れて、スピーディーに動いていらっしゃいます。そのことが、取締役会の在り方を変えているのではないかと私自身は感じています。
―社外役員と、それを受け入れる現任役員や取締役会、両者の積極的な歩み寄りがあって、よい効果が生まれているのですね。 【成川氏】
中条さんは素晴らしい実績をお持ちのプロフェッショナルで、取締役会では厳しいご指摘を頂くことも多いのですが、それでいながら、その言葉は常にフレンドリーで、知見を誇示するようなところが全くありません。我々が、抵抗感なくご意見を取り入れられるようにアプローチをしてくださるので、執行側として非常にありがたく思っています。
―社外取締役を迎えてからの取締役会運営で、ご苦労されたことはありますか? 【成川氏】
苦労というよりは「苦心」した点ですが、一番は、社外役員の方と現任の執行部との距離をいかに縮めるか、という点です。
社外役員の方々は、日々の案件や取組み課題に、執行側の私たちと同じだけ接するわけではありません。そんな中、月1回程度の会合で助言を求められ、決定を迫られる訳ですから、審議に必要な情報、議案が上がってきた理由やその背景なども事前にしっかりインプットしていただけるように配慮しています。
また、皆さまはそれぞれ異なるバックグラウンドをお持ちですから、忌憚ない言い方をすれば、皆使用言語が少しずつ違っています。私自身も銀行から来た当初は、社内で使われる言葉が理解できずとても苦痛だったことを今でも記憶していますので、異なる言語やカルチャーの方々と執行側との橋渡しができるよう心掛けていますね。
―社外取締役の立場からはどのようにお感じですか? 【中条氏】
日々の執行に直接触れない私たちに、必要な情報を共通言語にして伝えてくださっていることは、私たちの経営やアドバイスの質の向上に大変役立っていると感じます。また、就任前に社史を頂いたのですが、会社の成り立ちや考え方、理念、DNA、事業の変遷などを理解するのに、大変参考になっています。更に、時折技術のデモを拝見する機会があるのですが、それがとても貴重ですね。先端的なデモを見ながら、技術担当役員や現場の担当者からの説明を聞く。役員室の中だけで会社経営はできませんので、現場に触れるそうした機会を作って頂けることは、会社を理解する上で大変重要なことだと思います。来年はぜひ工場視察にも行って、働く皆さんとお話ができたらな、と思っています。
―社外取締役の獲得競争が加速する中、社外取締役に選ばれる企業とは、どのような企業なのでしょうか? 【中条氏】
選ぶ、選ばれるではなく「よい出会いを作り出すためには」の観点ですが、私が社外役員の就任を考える時のポイントは、大きく3つあります。
株主総会や取締役会のスケジュール確保は最低限必要なので、3つ目をクリアした上で、一番の決め手になるのは、やはり1つ目の「経営理念や事業内容に共感できること」です。経営者のお人柄や経営への思いに、私自身が共感し、その企業のために一緒に取り組みたいと思えるかを一番のポイントにしています。
就任前、成川社長や吉沢会長とお会いしたのは1度だけでしたが、経営者としての考えや会社の魅力を熱く語られるお二人のオープンマインドやグローバルな視点に、私自身が強く共感し、この方々と一緒に経営に携わったら幸せだな、と感じました。
―企業側としては、社外取締役に選ばれるために何が必要だとお考えですか? 【成川氏】
近年はスキルマトリックスの開示を求められていることもあり、企業側が必要な人材要件も明確化して、社外取締役獲得の競争率もかなり上がっている印象がありますね。中条さんと最初にお会いした際に、私は一応面談する立場で臨んだのですが、実際には面談をされているような感覚だったことを今も鮮明に記憶しています。自社の問題点が何で、それをどう解決したいのか、社員をどう導こうとしているのか、そんなことを経営者としてきちっと語ることが出来ないと、優れた社外取締役の方からは選んでいただけないのではないかと、感じています。
―取締役会以外に、社外取締役との情報交換の場などはお持ちですか? 【成川氏】
社外取締役、監査役、社長の3者の意見交換会を最低年2回は開催しています。他にも、社外取締役と社内の取締役、独立役員だけ、監査役と社外取締役、など様々な単位での意見交換会を開催しています。
そして、例えば直前の取締役会の「あの議題については事前説明が不足していた」とか「決議内容に完全に納得していないので、フォローアップの会合を開いてほしい」とか、様々なフィードバックや要望が上がってきます。そうした意見交換会からの要請にもできる限り応え、取締役会や監査役会の改善に役立てています。社外役員の方々の、専門性に基づいたご意見は大変有用です。頂いたご意見をきっかけに結論を延期して再度審議するケースなども増え、大きな影響力を持って頂いています。
―社外取締役にとって、意見交換会とはどのようなものですか? 【中条氏】
社外取締役にとっても、大変貴重な機会がいくつかあります。1つは、経営トップの方たちとの意見交換です。取締役会の外だからこそ社長や会長の本音に近い言葉をお聞きできることもあります。
また、監査役の方との意見交換も非常に貴重で重要なものです。特に、常勤監査役の方々は、業務の実態をよくご存じなので、気になっていた点がクリアになったりします。フォスター電機では、かなり高い頻度で意見交換の機会を作ってくださるので、とても助かっています。
それから、社外取締役同士の意見交換も、それぞれの専門分野がありますので、私とは全く異なる視点の意見を聞けたりするのが、とても役に立ちますね。
―意見交換会以外にも同様の取り組みがあるのですか? 【中条氏】
意見交換会以外に、終日かけて戦略を話し合う「経営戦略会議」に参加させてもらったり、グローバル拠点をつないでハイブリッドで開催される「経営会議」を視聴する機会もあります。取締役会ではお会いできない本部長や部長さんたちの議論が垣間見えるのも、知識を増やし、質を高める両面で、とても有益です。
最後に、取締役会の質を高めるためには、事務局がとても大きな役割を果たしていると思っています。議案の内容によっては事前に質疑の応答をしておくとか、審議に必要な情報を事前に細かく説明頂くなど、取締役会の場で、より効率的に質の高い議論ができるよう色々と配慮頂いています。
いくつかお話しましたが、取締役会という枠組みの中だけでなく、その外の取り組みもうまく取り入れながら経営を進めていくことはとても重要なのではないか、と私は思っています。
―様々な角度から、社外役員の方々に会社を理解頂くための機会を作っているのですね。 【中条氏】
社外の方が取締役会で色々ご意見をされるとなると、場合によっては社内と対峙するような構図が出来てしまうケースがあるかもしれません。ただ、私はフォスター電機専属の取締役に何かを隠して会社が得をすることなど、1つもないと思っています。だから、経営会議やその他の重要会議も徹底的にオープンにしますし、もっともっと社外役員の方たちに参加して頂いてもよいくらいです。もちろん皆様自身の時間の制約もありますから、おのずと限界はありますが、社内の技術大会や、予算、中期事業計画などは当然参加頂いて、できる限りの壁を取り払うよう努めていきたいと思っています。
自社に必要な変革を成し遂げるために、社外役員に会社をより深く理解してもらおうとするフォスター電機様の一貫した姿勢がよく伝わってきました。そのような姿勢をお持ちの経営者だからこそ、中条氏のような優れた社外取締役を得て、強い信頼関係の元会社運営がなされているのだと感じます。
フォスター電機様では、今後の事業の未来を考えるため、同社内のスキルマトリクスで抽出した「研究開発力の強化」「DXの推進」「女性活躍推進」の要件で、社外取締役をお探しされていました。
弊社では、企業様の今後の未来を共につくるため、社外取締役としての要件、企業経営内のスキルマトリクスも考え、最適な方のご提案をさせていただいております。ぜひ、お気軽にご相談ください。
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