『減価償却』って言葉を聞いたことはありますか?会計について少しでも学んだことがある方なら知っているかもしれませんね。知っているととてもお得なこの仕組みについて、基本的なルールから例外的な方法まで、一挙にご説明します。
目次
事業を運営していくために必要な建物や自動車、パソコンなどといった設備のことを、固定資産と言います。「資産」という言葉から分かるように、これらの設備は事業者にとっての財産でもあります。
設備は残念なことに、使用していくごとに故障しやすくなったり、同モデルの新商品が出て、古いモデルとなっていったり、新しい製品と比べると性能が低くなったりしますね。
減価償却とは、設備の価値が低くなったということを、会計上で数年かけて少しずつ計上していく仕組みです。
設備の価値が低くなるというのは…スマートフォンを買ったとします。買ったばかりだと下取りに出しても高く買い取ってくれますが、使用期間が長くなるほどに下取り価格は安くなり、最終的にはタダ同然になります。
厳密に言うと減価償却とは少し違うものなのですが、考え方としては似ています。
基本的に固定資産は「資産」と名のつく通り、財産の一部です。購入の代金と引き換えになっているため、会計上の財産の量は代わりません。
しかし、減価償却をすると、年々価値が下がる分、買った時よりも価値が下がった分として、固定資産の購入にかかった費用を数年間にわたって少しずつ「減価償却費」という経費として計上することができることです。
残念ながらどんなものでも減価償却できるわけではありません。
固定資産の中でも、次のようなものが減価償却を行うもの、「減価償却資産」です。
①建物(建物本体)
②建物付属設備(給排水設備など)
③構築物(駐車場のアスファルト舗装など)
④車両および運搬具(自動車)
⑤器具及び備品(机、棚、パソコンなど)
⑥無形固定資産(ソフトウェアなど)
決められた耐用年数の期間に、ほぼ全額を減価償却費として計上することができます。毎年の減価償却費の金額は計算方法によって異なります。計算方法は定額法と定率法の2種類があります。
どちらの計算方法をとるか、一定の期限までに税務署に届け出る必要があります。届出をしなかった場合は、所得税では定額法を選択したものとみなされてしまいます。これを法定償却方法と言います。
定率法で計算をしたい場合は、事前に届け出るかを考えた方がよさそうですね!
ただし、これには例外もあります。
定率法を税務署に届け出た場合でも、平成10年4月1日以後に取得した建物本体と平成28年4月1日以後に取得した建物付属設備及び構築物は、定額法でしか減価償却できないと決まっています。
減価償却できるものとできないものがあります。金額の計算方法は「定額法」と「定率法」の2種類ありますが、
例外により定額法でしか減価償却できない資産もあります。
【計算例】
取得価額100万円、耐用年数5年の固定資産を購入した場合
①定額法
固定資産の耐用年数期間中、毎年同額を減価償却費として計算する方法です。
1年目 200,000円
2年目 200,000円
3年目 200,000円
4年目 200,000円
5年目 199,999円(備忘価額1円を残します)
5年間の減価償却費合計 999,999円
②定率法
初年度に多額の減価償却費を計上し、その後毎年の減価償却費がだんだん減少していく方法です。
1年目 400,000円
2年目 240,000円
3年目 144,000円
4年目 108,000円
5年目 107,999円(備忘価額1円を残します)
5年間の減価償却費合計 999,999円
計算の時、ポイントとなるのが【耐用年数】です。
耐用年数とは、資産の種類ごとに税法で定められた、使用できる期間のことで、建物のように頑丈で長期にわたって使う固定資産の耐用年数は長く、パソコンなど使用サイクルが比較的短い固定資産の耐用年数は短く定められています。
【例】
建物(住宅用・鉄骨鉄筋コンクリート造)…47年
パソコン…4年
自動車(総排気量が0.66超)…5年
参考 :国税庁HPより 耐久年数表
https://www.keisan.nta.go.jp/survey/publish/34255/faq/34311/faq_34353.php
個人事業主の場合、原則は定額法で毎年の減価償却費を計算しますが、購入した時の金額が一定以下の固定資産は、こんな償却方法もできます。
①使用可能期間が1年未満の固定資産
購入時に全額「消耗品費」等として経費に計上することが認められています。
②取得価額が10万円未満の固定資産
購入時に全額「消耗品費」等として経費に計上することが認められています。
③取得価額が20万円未満の固定資産
「一括償却資産」として、3年間で均等に費用に計上することが認められています。
④取得価額が30万円未満の固定資産
青色申告者のみ、購入した年に全額費用計上することができます。
だたし、1年間に合計300万円までしか費用計上できないので注意しましょう!
※取得価格・・・・物品、物件を購入するために要した金額の事。購入金額ではないので注意
(例えば・・・パソコン購入時にかかる送料や運送に保険をつけた場合なども取得価格に含まれる)
取得金額が10万円を超えるかどうかが基準となります。10万円を超える場合でも①のように消耗品として計上することが認められているものもあります。
例えば毎年更新する必要のあるソフトウエアのライセンス契約なども含まれると思います。(ソフトウエアに関しては国税庁のHPに掲載がないので、一度最寄りの税務署で聞いてみると良いかもしれませんね)
物はいつか壊れるもの。
・・・であれば、使えなくなった時には会計上どうしたらいいのか、ということも気になりますよね。
事業で使用していた固定資産損壊し、廃棄したなどという場合は、取得価格からこれまで減価償却費として費用計上した金額の累積額を引いて、残額を出します。
その残額を資産損失として、廃棄した年の経費に計上しましょう。
例えば・・・パソコンが3年目で壊れた!
【計算例】
取得価額30万円、耐用年数4年の固定資産
①定額法で計上していた場合
1年目 75,000円
2年目 75,000円
3年目 75,000円←ここで損壊
4年目 74,999円
備忘価額 1円
よって・・・・
取得価格ー減価償却費×2年分=資産損失年に計上する金額+備忘価額1円
30万(円)ー15万(円)=15万(円)
②定率法で計上していた場合
1年目 120,000円
2年目 90,000円
3年目 60,000円←ここで損壊
4年目 29,999円
備忘価額 1円
よって・・・・
取得価格ー減価償却費×2年分=資産損失年に計上する金額+備忘価額1円
30万(円)ー21万(円)=9万(円)
減価償却は償却方法や耐用年数が税法で細かく決められています。購入した年だけでなく、耐用年数の期間中はずっと影響を受けることになります。
購入した時点で、手数料などを含め購入にかかった金額を把握しておくことや耐用年数の正確な情報が必要です。
減価償却費の計算そのものは難しいものではなく、人の手で計算することも可能です。しかし、減価償却をしている固定資産の数が増えるにしたがって、計算が煩雑になりますので会計ソフトを活用するのもおすすめです。
所得税の申告直前になって慌てないように、早めの準備を心がけたいですね。