新規事業を生み出す“意識改革”と “しくみづくり“が私の提供できる価値だと考えています。富士フイルム時代の経験が私のフィロソフィーの根幹になっています。富士フイルムは、企業の安定的な利益確保と資源配分が難しいとされる多角経営(コングロマリット)を、実は「強み」として実践してきている企業です。例えば、「技術の棚卸」による自社の競争力の源泉(=アセット)となる”コア技術“を抽出し、技術と市場の軸で最適なテーマポートフォリオを”見える化“しました。この検討プロセスを通じて、勝てると判断した市場にタイムリーにオンリーワン・ベストワンの商品展開を進めてきています。
たとえば、主力商品であったアナログ写真フィルムでは、その市場はデジタル化の波によって2000年をピークに年率10-20%で総需が縮小し、わずか~8年程度でほぼ消失。富士フイルムはこの危機を乗り切って迅速に業態転換を図るべく、当時の事業部縦割り組織に対してR&D組織を再編して全社横断のコーポレートラボ群を構築、総力で新規事業開拓に取り組みました。特に、R&Dが主体で「技術の棚卸」を徹底的に行い、商品競争力の源泉となる”12のコア技術群“、及び、勝ち続けるための体力となる”10の基盤技術群“を社内で共有化しました。その共通認識が一つの大きな原動力となって、フラットパネルディスプレイ材料事業、化粧品・サプリ事業、医薬品事業、バイオCDMO事業など数多くの新規事業への展開を可能としました。私はそのしくみづくりを主導で進め、形にすることができました。
また、組織改革と並行して新しいものを生み出すための社内の組織風土づくりも重要なポイントとなります。さまざまな物事に対する自由な発想、好奇心、そのカルチャーの醸成はイノベーションを創出していく上で必要不可欠な視点であることを意識しなくてはなりません。
私はイノベーションを起こしやすい組織風土づくりに向けて、通常の個別支援のほかにセミナーやワークショップなどを通じて、こうした意識を醸成していくことも得意としています。
私の仕事のスタンスは、過去の経験を絶対視せず、企業の特長に合わせたやり方を考えるようにしています。富士フイルム時代の知識や経験、実績が基本的な考え方であるとはいえ、必ずしも別の企業にそのまま適用できるとは限りません。その企業の事業領域、置かれた状況、独自のカルチャー、価値観などにより方法論は異なるからです。そのため、私が支援に入るときには徹底的にその会社のことを調べ、学びます。まずは現状分析に注力し、課題を抽出します。市場や業界の特質を知ることは当然のこととして、その企業の強みや弱みを正確に理解しなければ適切なアドバイスやコメントが発信できないと考えています。
現在社外取締役として関わっている企業では、月に1回の取締役会のほかに、各部門での会議や工場、現場内覧などにも努めて参加します。役員として経営に参画する際には、その企業の現場を自分の目と耳とで判断するために必要なプロセスだと位置づけています。関わらせていただく企業の一員として企業の実情を踏まえたやり方を考え、主体者意識をもって支援していくことこそが大切です。