労働の中核的な担い手である、生産労働人口は、1995年の8716万人(総人口の69.5%)をピークに減少に転じ、2023年2月1日時点では概算で7400万人、総人口に占める割合は59.4%にまで低下しています。(総務省推計より)
生産労働人口の減少は、今後も大きく進む見通しで、デジタルを活用した業務効率化は、各企業においても、日本社会全体としても急務と言えます。しかし一方で、大多数の企業が保有するレガシーシステムの老朽化・複雑化によって、システム改修の取り組みがなかなか進まず、今後の対応を苦慮されている企業様も多いのではないでしょうか。
今回は、50社以上もの企業のシステムに関わってこられた、DX/情報システムの専門家である樋口氏に、システムのリプレイスにおける難しさや、効率的な進め方、コスト削減につながるITベンダーとの関わり方のポイントを、実例を踏まえてお話いただきました。
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前述の通り、人口減少と少子高齢化に伴って、日本の「生産労働人口」は今後も大幅な減少が見込まれています。一方でその「生産性」に目を向けると、現状の日本の労働生産性は、G7各国の中では最下位、OECD加盟各国の平均値よりも下に位置し、国際的に見ても決して高い水準とはいえません。今後より大きな問題として覆いかぶさる労働力不足を補うためにも、先進各国の水準に追いつくためにも、今後の日本の労働生産性をどう上げていくのかは、非常に重要な課題と言えるでしょう。
日本人は、同じことを継続する能力に長けている、とよく言われますが、ビジネスにおいても、「従来通りのやり方を続ける前提で、今後を考える」経営者が多い傾向があります。一方、アメリカを中心とした国際社会では、効率が最も重視されます。日々変化する市場環境で勝つために、自身も日々変わりながら生き残ることを考える。「同じやり方を10年20年続ける発想」自体がなかったりするわけです。ここが、日本と世界的なビジネスの取り組み方との大きな違いです。グローバル市場での競争力を手にするためには、この前提を刷新することも必要だと感じます。[樋口氏]
折しも、2018年9月経済産業省から発表されたDXレポートは、多くの国内企業に衝撃をもたらしました。今後、DXへの取り組みが進まなかった場合、2025年以降に年間最大12兆円もの莫大な経済損失が生じる可能性を提示したのです。基幹システムの老朽化やブラックボックス化、更にITの第一線で活躍する人材の大量定年も重なり、深刻なIT人材不足も危惧されています。この点から、同レポートでは「レガシーシステムからの脱却」の必要性を訴えているのです。
このような背景から、国を挙げてDXを推進する動きが加速してきたわけですが、その歩みは必ずしも順調とは言えず、まだまだ紙を中心とした業務が多く残る企業や、ようやくデジタル化に着手した、という取り組み初期フェーズにある企業も少なくありません。
業界特性もあるので一概に早い遅いとは言えませんが、例えば建設業界などでは、20年ほど前に基幹システムを導入した企業が多く、経理処理等の自動化・IT化は実現していたものの、その周辺には紙やファックス等を使った業務がいまだに多く残る現状があります。ただ、これは捉え方を変えれば「それだけ改善の余地がある」ともいえるわけです。DXの推進で、かなりの効率化が実現できる好機である。そう捉えて取り組むといいですね。[樋口氏]
件の2025年は、もう目の前に迫っています。今後実際にシステムを刷新される企業様も多い中、留意していただきたいポイントを見ていきましょう。
システムの刷新は決して容易なものではありません。誰もが知る大手企業にとっても例外ではなく、計画通りプロジェクトが進まず、結果として莫大な投資額に陥ったケースや、途中でプロジェクトを断念することになったケースなど、IR情報等では多くの失敗事例を目にすることができます。
では、実際にシステム開発の各フェーズにおいて陥りやすい問題とその打開策を見てみましょう。
システム導入では、RFP(提案依頼書)を作成する企業が多いのですが、約半数ほどの企業ではRFPの知見が不足しています。加えてRFP、要望書、要件定義書・・・など、開発プロジェクトでやり取りされるいくつもの文書の定義や、提示のタイミングが把握できていないこともよくあります。更に、口頭で伝えられた要望だけをベースに作成された要件定義書で、システム開発がスタートしてしまう、というようなことも実際に起こっています。そうした中で少しずつ生じる認識の違いが、いつの間にか大きな溝になり、意図したシステムとは違ったものが出来上がってしまう、ということが起こるのです。
また発注元に、システム開発の手順や具体的な工数の知見がないと、プロジェクトのほとんどをべンダーに丸投げすることになります。すると、ベンダーにとって都合の良い納期や手順が採用されてしまったりする。専門的なシステム部門を持つ企業はそれほど多くはありませんので、このような問題はどこででも起こりえるのです。
そうならないためには、
プロに任せておけば、プロジェクトの進捗~納品まで希望通りに行くと思われがち ですが、開発現場はそんなに簡単ではありません。都度発生する問題に細かく対処しながら進めるものなので、常にベンダーと協力しながら問題にあたることが重要です。
システム知識が不十分な発注元は、システムの「表」の動き、画面上の動きにばかり注目してしまいがちです。実はシステムの「裏側」にこそ、複雑な仕組みやデータの持ち方や構造、といった重要な判断軸が隠れているのですが、その重要な部分は全く確認もせずに判断してしまうのです。
また、費用的な問題も起こりえます。ベンダーから事前に提示された費用が開発費のみで、リリース後の保守費用については事後に知らされた、というケースすらあります。こうなるともう、費用はベンダーの言い値で支払わなければならなくなってしまうわけです。システムは作るだけでは終わらず、その後長く運用していくのですから、ランニングコストの確認はとても重要です。
こうした失敗に陥らないためには、システムの「裏の仕組み」例えば外部システムとのデータ連携の可否や、データ構造を確認し、理解・納得しておくことが大切です。また、ベンダーからの提案が自社のニーズに合っていないことも散見されるので、1つのベンダーにすべて任せるのではなく、合い見積もりを取って費用や範囲の妥当性を判断することも有効です。
ほとんどの企業にとって、基幹システムの入替は、10年~20年に1度という大きなプロジェクトです。にもかかわらず、現状の業務フローを全てそのままシステム化しようとしたり、特段理由もなく旧来通りのオンプレミスのシステムを導入する企業が多くあります。その結果、システムを一新するビックプロジェクトだったはずが、ハードウェアや画面のちょっとしたレイヤーの変化はあっても、中身としては旧システムとほぼ同じものが出来上がり、費用だけが何千万・何億円と積み上がってしまった、ということが実際に起こっています。
自社独自の業務フローの中には、戦略的で重要な譲れない部分があると思いますが、それ以外の部分は最新の最適化されたシステムに合わせて業務フローを見直すという柔軟性も必要だと感じます。そうすることで、業務改善による効率化やコスト削減が期待できます。また、ベンダー側の提案のままにすべて実装するのではなく、自社にとって本当に必要な機能かどうかを精査することで、無駄なコストを抑えることも可能です。
「業務のプロではあるが、システムに慣れていない発注元」と、「システムのプロではあるが、発注元企業の業務に慣れないシステムベンダー」との間で、正確な意思疎通を図ることは、思う以上に難しいことです。仕様書の文言一つとっても、意図した通りに伝わらないケースが多々あります。なので、お互いに相手に伝わりやすい言葉選びをすることで、コミュニケーションの質を上げ、理解を深めることがとても重要です。
またシステムには度々修正や変更が生じますが、その度に、仕様書を含めたドキュメント類もアップデートしておくことが大切です。将来システムの運用ベンダーが変わった時に、仕様書に記載のない機能が満載のシステムでは、その機能要件から検証する必要が生じ、多額の不要なコストが発生してしまうからです。
では、ここからは樋口氏が実際に経験されたプロジェクトの事例もお話いただきましょう。
ECサイトなどを運営する小売り企業のシステム入替の事例です。
稼働中システムの保守切れに伴って、バージョンアップの提案を受けたものの、システムのことは長年ベンダーに任せきりで、社内では提案の精査が難しい状況でした。見積詳細には、様々な機能要件が含まれ、額が膨れ上がっていましたが、現場の実情と照らし合わせて、十分なバックアップは確保しながらも、過剰なスペック部分は削っていくことで、ベンダーと折衝。双方納得の上、かなりのコスト削減を達成した事例です。
システムの知見がないと、削るべき部分の判断が難しい上、ベンダーとの長期にわたる関係性のために、率直な意見が伝えづらいケースもあります。第三者の専門家が間に入ることで、うまく進んだケースです。
社内に紙運用が多く残っていた建築資材メーカーの業務の自動化実現の事例です。
こちらは、2年ほど前から継続支援している企業ですが、まず最初に業務フローの棚卸から着手しました。業界特性もあって紙での仕事がとても多く、そのことに起因して社内各所で重複する手作業が発生していることを洗い出しました。この不効率を解消するため、自動化システムを計画。構想段階から支援に入っていたこともあり、ベンダー選定や折衝にも参加して、ベンダーとも良好な関係が構築できたと思います。結果、プロジェクト進捗も順調で、納期・費用ともに計画通りのリリースが実現しました。
最初は小さな業務改善で成功体験を作り、もう一段先のステップに進む、という社内意識の醸成と、段階的なDXが推進できたところもポイントです。
来る2025年に向けて、システム入替やDXを推進される皆様には、以下の3つのポイントをお伝えします。
社内にシステム専門部隊がなければ、顧問やアドバイザーといった外部の専門家を味方につけて、しっかりとした知見を持ってベンダーと対峙することが必要です。
DXの阻害要因の1つとして、旧態依然の業務を変えられないことも挙げられます。譲れないコアな部分は大切に残しつつ、その他の部分は最新の方法を取り入れ業務を効率化していくことにも、柔軟であって頂きたいです。また本格的に取り組むにあたっては、DXの専任部隊の設置や、先進的な取組みをする社員への評価、といった体制の変更も必要だと思います。
改革に反対する社員がいつのはつきものですが、そこは敵対するのではなく、前向きに社内合意を取って進めることが重要です。全社を巻き込む取り組みなので、この取り組みで会社はよくなる、だから共に進めていこう、とうまく巻き込んでいってください。
最後に樋口氏は、
システムの構築やDXを推進する上では、外部のシステムベンダーさんとのパートナーシップが欠かせません。システムを発注する際にコスト面を気にするのは当然ですが、一時のコストにばかり目を向けるのは賢明とは言えません。システムは、構築だけでは終わらず、その後長く運用保守をしていきます。その間サポートしてもらうベンダーさんにもきちんと利益を得てもらい、互いに信頼感を持った関係性の構築がまず大切なのです。そうして良きパートナーになれれば、起こりえる様々な場面である程度の無理なら聞いてもらえる関係性となり、結果として自社の利益につながっていくと思います。
と締めくくりました。
▼ご登壇いただいた樋口顧問の詳細はこちら:
基幹システムの入替のような大きなプロジェクトの場合、社内に十分な知見があるケースは、そう多くはありません。今回登壇頂いた樋口顧問のように、プロジェクトの発足時から、業務フローの見直し、システム要件の整理やベンダー折衝、プロジェクトコントロール、リリース後の保守運用に至るまで幅広くサポート・伴走してくれる外部の専門家の存在は、大変心強いものではないでしょうか。
JOB HUB 顧問コンサルティングでは、今回ご登壇頂いた樋口顧問のようなITやDX領域の専門家が多数ご登録をいただいております。システム導入や刷新の際には、必要以上のコストやスケジュールの遅延などが予期せず発生いたします。ご経験豊富なプロフェッショナルがいらっしゃれば、システム企画や全体設計だけでなく、ベンダー選定や妥当性判断、ベンダーコントロールの適正化など、円滑にプロジェクトを進めることが可能です。
ぜひ、「JOB HUB 顧問コンサルティング」へお気軽にお問合せくださいませ。
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