SEMINAR

いま企業を悩ます海外人事 ~意外と知らない落とし穴~

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登壇者

People Trees合同会社 Co-Founder &CEO 社長 東野 敦 氏
富士重工業(現SUBARU)や本田技研工業で工場・研究所を担当した後、20か国以上の国における海外進出や現地法人の人事部門の支援に従事。
グローバル人事部門で人事戦略企画を担当し、2010年からはフィリピンに駐在し、人事責任者を務める。
その後、江崎グリコにてグローバル人事ヘッド・戦略企画マネージャーを兼任し、海外人事部門立ち上げを実施。
在職中にPeople Trees合同会社を共同創業し、2020年9月に独立。
海外人事の専門家として、50社以上の国内外様々な企業の人事支援を行う。

レポート

日本企業の海外進出・事業拡大は年々加速しています。製造業だけでなく、サービス業、小売業、外食産業など幅広い業種で、人材獲得や市場開拓のために動き始めているのが現状です。

これから海外進出する企業様や未経験のエリアへ進出する企業様にとって、検討すべき事項は目的、状況で変わります。一方で、すでに海外法人を持つ企業様においては、国際地政学的リスクの観点から人事制度・規定の再構築が求められつつあります。

このような現状を踏まえ、本セミナーでは、世界各国で海外事業立ち上げや人事責任者をご経験された東野 敦氏より、海外人事でまず大切にすべきこと、乗り越える課題と解決策について実体験をもとにお話いただきました。

日本企業における海外展開の現状

近年、海外進出する日本企業は増加傾向にあります。海外進出日系企業のDI値に注目すると、2021年から回復傾向がみられます。政治的リスクなどの影響で一部地域では伸び悩むものの、広い地域で海外事業への再投資が進んでいる状況です。

このような背景から考えうる動きを以下にまとめました。今回は、このような目的で海外進出を検討する際の留意点を東野氏にお話いただきました。

  • 初めて海外に進出する(初めてのエリアに進出するも含む)
  • 製造拠点から販売拠点へ機能・役割が変わる)
  • 現地の会社をM&Aする改めてグローバルな人事ローテーションを検討中
  • ガバナンス強化の一環で、海外事業所管理を強化する必要がある
  • 様々なリスクから海外駐在員の安全性管理体制の強化が必要

海外人事領域でよくある課題や問題点

海外展開の課題は個別性が強い

東野氏が支援してきた180社もの企業様のほとんどが海外展開を検討しています。介護では人材獲得、飲食店では市場拡大、製造業では現地事業拡大など、業種業態に偏りがなく、目的も様々です。

「いずれは海外展開を……」と検討する経営者の皆さまがまず認識すべきこととして、人事領域における課題は個別性が強い点にあると東野氏は強調します。

人事部門に現地を知る人がおらず、経営者と一部の駐在経験者だけがその国に詳しい状況はよくあることです。しかし、国によって文化、政治情勢、地政学的リスク、市場動向すべてにおいて個別性が強い点は、特に押さえていただきたいところです。(東野氏)

対象の国を解像度高く捉える

海外進出を「海外」や「国」で捉えると解像度が不十分です。対象国の政治、文化、さらに時代ごとの変化を捉える必要があります。その際に、人事部門が認識しておくべきことを3つ挙げていただきました。

(1)海外経験者の話は、過去である点を踏まえて鵜呑みにしない

例えば、20年前に渋谷で働いていた人に現在の渋谷の印象を聞くと、実際とは異なる印象を答えるでしょう。同様に、海外経験者の話を聞く際は、その経験がいつ頃の話か確認することが大切です。

(2)個人の体験はそれぞれ異なる

例えば、アフリカからタイに転勤した人は、アフリカとの比較で「タイの方が良かった」と感じるかもしれません。一方、東京からタイへ転勤した人は、前者とは異なる印象を持つ可能性があります。家族の有無や転勤のタイミングなど、個人の経験は個別性が高くなりやすい要素です。

(3)現地の既成概念にとらわれない

駐在員の3分の1は、その国のネガティブな側面に着目しがちです。現地経験者の「この国の人は時間を守らない」など偏った見かたをそのまま受け入れると、「日本とは別の国だから」と考え、人材育成制度が現地で機能しなくなる可能性があります。大切なのは「国は違えども同じ人間」という認識を持つことです。国の違いを客観的に捉え、宗教・歴史的背景を踏まえて、現地の人材を活かす考え方が重要です。

ノウハウ不足の要因と考え方

海外だからといっても対象は人間です。その土地の文化・宗教・歴史を最低限踏まえて事業展開をすることが大切です。その際、考えられる課題を4つ挙げていただきました。

(1)現地・現場で対応しているケースが多く、ノウハウが属人化

現地駐在員の経験には正しい部分も多々あります。しかし、それらを広く俯瞰して確認する必要はあるでしょう。

例えば「アメリカ人はジョブホッピングが当たり前で、給料が10ドルでも上がるならすぐ転職する」といわれますが、アメリカ人を一括りにはできません。同様に、アメリカでは「日本人は帰属意識が高く転職しない」と言われていますが、日本在住の人なら、そうとは限らないことがわかるはずです。

現地の状況や文化を人事自ら確認し、判断することが重要です。

(2)個別な課題が多くパッケージソリューション的なモノがあまり無い

現時点では、各国に対応するパッケージソリューションがありません。自社のノウハウ不足を補うには、その地域に特化した専門家を頼っていただくのがおすすめです。

(3)1ショットの課題が多く、ノウハウの蓄積がされにくい

経営目線で考えれば、どの国でも従業員に事業へのコミットを求める点は変わりません。離職率が高い状況であっても、それをその国特有の事象だと考えるべきではありません。その前提に経ち、現地の労働法、文化、宗教、考え方に合わせたアプローチを取ることが最善策です。国、地域、社会階層などへの適応に向けて、それぞれの国のノウハウを蓄積することは非常に重要です。

(4)知見が製造業に集約している印象

現時点では製造業の事例が多く見られますが、IT系、小売を中心に様々な業種で海外展開が検討されています。これらの状況を踏まえ、事前の準備を整えておくことが懸命だと考えられます。

例えば、2015年から注目された「人的資本経営」のように、日々、人事領域もアップデートされます。最新のノウハウや潮流を日本独自のものとせず、現地の社長、経営陣への教育を行うことも重要です。人事は人を熟知しているプロフェッショナルです。著しく離職が多いなど不自然な点があれば、現地視察するなど積極的に関わっていただきたいです。(東野氏)

よくあるご相談

実際に、東野氏へ寄せられるご相談と留意するべきポイントを伺いました。

➀「何をグローバルで統一するのかわからない」

グローバルで統一すべきことは第一に理念です。その他、制度や育成プログラムは国ごとに位置づけが変わるため、個別に検討が必要だと考えられます。

例えば、育成プログラムは「優秀層へのベネフィットである」とする国もあれば、日本のように「全員が受けるものだ」とする国もあります。

②「リスク発生時のレポートラインが事業と管理部門でバラバラ。ガバナンスに不安」

リスク発生時のレポートラインは、一度、確認することをおすすめします。

例えば、工場が被災した場合。被災状況は事業経営、個人の怪我は人事という2つのレポートラインで共有される企業は多いと考えられます。コロナ禍や戦争など、緊急時のスムーズなレポートラインは平時から検討しておいたほうが良いと考えられます。

③「駐在員の規定が古すぎて、アップデート出来ていない」

スライドの左側「各法人の置かれている状況はどこか?」をもとに、事業が目指す状況を確認し、手段を検討します。他社の駐在員規定を参考にする企業も多いと思われますが、一概に良いとは言えません。

初めてのエリアに進出する際の注意点

特に注意すべき4項目

これから海外進出をする企業様に向けた注意点を4点、ピックアップしていただきました。

(1)誰を赴任させるのか?(人選)

一人目の社員選定は非常に重要です。国内から選出するのか、現地でリクルーティングするのか悩まれると思います。

ここは、事業への理解があり、マネジメントができる方が対象になります。決して、事業理解の深さや語学力だけで選ぶべきではありません。

(2)事務所や工場の立地選択

立地は、採用競争力や労務コストなど事業運営に影響する重要事項です。日本と同様によく吟味すべきです。

例えば、ジャカルタ近郊は交通渋滞がひどいため、場所によっては通えないケースも考えられます。エリアによって人材のスキルレベルに差があることもあります。

自宅から通勤できるかどうかは各国共通の重要事項です。転勤・転居が成立しないこともありますし、そもそも車を持つことが難しく、徒歩でしか通えない地域もあります。

(3)当該エリアのレギュレーションやカルチャーを理解する

レギュレーションは過去の経過も把握すべきです。もし、変更が頻繁に行われている場合には注意が必要です。また、赴任者には事前に簡易レクチャーを行い、特にビーブルマネジメントにおいて初手でGAPが出ないようご注意ください。中国やアメリカのように、事業に対し政府が介入するケースが考えられます。

(4)まずは必要なポジションの報酬と労働条件を設定する

採用条件と労働条件はしっかりと定めましょう。

1人目の採用はとても重要です。例えば、現地に詳しい日系人を「日本語ができるから」という理由で採用し、その方の報酬が基準となって後の採用がしづらくなるケースが考えられます。最初の採用、労働条件をうやむやにしたまま決めないことが大事です。

事務所・工場の選定に関する補足

立地に関しては、一度決定してしまうと後々変更ができないため、人事が積極的に関与しなければいけない項目です。なかでも特に着目すべき点をまとめていただきました。

・採用競争力

例えば、日系商社による工業団地に入る場合、インフラのほか、治安、災害への強さはあるものの、近隣の日系優良企業が採用競合になります。この点をどう捉えるかよく考えるべきです。

・州・県・省の労働法

最低賃金がどの程度か、日本とは違って地域差が大きい点に注意が必要です。

・労働コスト

労働組合が強い地域であれば、厳しい賃上げ交渉があると考えられます。近隣企業の給与水準、教育・医療インフラも把握しておく必要があります。

この点について、事業部に任せきりにするのではなく、積極的に関与していく必要があります。お客様のなかには、「土地が安かったから」という理由だけで立地を決めてしまい、人材が集まらないなどの課題が、立地決定後に明らかになるケースがよく聞かれます。(東野氏)

人事が持つべき、海外展開の心構え

最後に、今回のまとめとして大切な心構えを教えていただきました。

➀海外だからといって構えない。

世界中の方々はみな人間です。海外へ行く人はみな「この国だけは特別だ」と言います。ですが、個人的には、世界のどこに行っても基本的に大きくは変わらないと思うくらい、日本が一番難しいのではないかと思います。人間同士、信頼関係があれば、どんな人でもつながれます。

②人の考えは、人それぞれ

例えば、海外で私が食事をご馳走したとき、日本人ならば、翌日に「先日はごちそうさまでした」「ありがとうございました」など、お礼の言葉を伝えると思います。ですが、海外では何も言わない人もいます。理由を聞くと、「あれは神様が東野におごらせたから、私はお礼を言う必要がない」と考えるのだそうです。悪気はありません。このような宗教観・文化の違いは個々に存在すると捉えるべきです。

③人事は現地に任せず、積極的に関与する

日本とは違う環境で自由に動けない中で、ガバナンスを効かせながら現地の人材を育成するためには、人事として積極的に関与する必要があります。人事としてやるべきことは世界共通です。あの国だけは特別だから、現地社長や事業部にまかせていいということはありません。

まとめ

どの国の人も同じ人間であることを踏まえ、各国の文化、歴史、宗教の理解を深めることと、自社の課題を見極めることの大切さがよく分かりました。日本が一番難しいのではないかというお話は驚きましたが、対象国に詳しい専門家を頼りながら、自らの目で事実を見極め意思決定することの重要性は世界共通だという点に深く共感しました。

グローバル展開を進める上で、人事が積極的に関与し、現地の実情を理解しながら適切な施策を講じることが不可欠だと改めて認識しました。貴重なお話をありがとうございました。

海外人事のお悩みには「JOB HUB 顧問コンサルティング」にご相談ください。

コロナ禍で一時減少に転じた海外進出・海外事業拡大。しかし、アフターコロナ、更には日本の人口減少によって、各社の海外事業拡大に向けた動きが活発化して参りました。

初めて海外進出、もしくはこれまで経験のないエリアへの進出を検討する企業様、製造拠点としての進出から販売拠点へのシフト、ビジネスモデルの転換、また地政学的なリスクなどを踏まえた拠点の統廃合や移設、現地企業のM&Aなど、検討範囲は多岐に渡っています。

そのような中、近年のガバナンス強化の流れから、現地法人をどのようにコントロールしていくのか?地政学リスクから駐在員の安全をどのようにサポートしていくのか?など海外人事における課題は山積しています。しかし、コロナ前後の環境も影響し、海外進出や海外人事に関する知見やノウハウが企業内に蓄積されていることは少なく、経験者自体も少ない状況です。


そこで、プロフェッショナル人材に海外の現地状況や海外人事の構築、検討を先導し進めることで、失敗リスクを回避し、成功確率を高め、社内にノウハウを蓄積することが可能です。
海外進出や海外人事でお悩みの方がいらっしゃれば、ぜひご相談ください。

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