SEMINAR

これからのブランド戦略 ~BtoB企業のためのストーリーテリング戦略~

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登壇者

株式会社東京片岡英彦事務所代表 片岡 英彦(かたおか ひでひこ)氏
日本テレビに入社し、記者・ディレクター・宣伝プロデューサーとして、主要な国内事件の報道や数多くの番宣活動に携わる。
その後、アップルコンピュータのカスタマーコミュニケーション・マネージャーとして、iPod発売開始時のユーザー戦略立案に寄与。
MTVジャパンでの広報部長兼社長室長を経て、日本マクドナルドのマーケティングPR部長として、Word of Mouthを重視したデジタルコミュニケーションに注力。
ミクシィのエグゼクティブ・プロデューサーを務めた後、片岡英彦事務所(現株式会社東京片岡英彦事務所)を設立。
企業の戦略PR・ブランドコンサルティング事業のほか、厚生労働省「医師の働き方改革普及啓発事業」の技術審査委員等を務める。

レポート

市場変化、グローバル化の加速を受けて、自社のアイデンティティや価値を認知してもらう「ブランディング」の重要性が高まっています。ですが、ブランディングの定義が曖昧であることから、具体的に何をすればよいのかわからず、思うような結果を得られず悩む企業は少なくありません。加えて、ブランディングは広報や販売促進であると誤解され、導入したくても社内の理解が進まない様子も見受けられます。

今回は、混同されがちなマーケティング、セールスとの違いを紐解き、企業で採用されるブランド戦略の基本的な考え方を、大手企業・国際NGOなど数々のPR・ブランディング支援に従事した片岡氏に解説いただきました。

ブランドとは、顧客が抱く企業・商品へのイメージ

ブランディングは広報・販促部門だけものではない

企業活動におけるステークホルダーとのコミュニケーション活動は、顧客へ向けた広報活動だけではありません。対象と姿勢の2軸で企業のコミュニケーションを俯瞰すると、そのすべてでブランディングが関連することが分かります。

なかでも最近は、社内ロイヤリティと結束力を高める目的や、外的要因によるブランドイメージ毀損への危機管理の観点で、ブランディングが注目を集めています。

ブランディングはマーケティング部や販促部だけが扱う分野だと誤解されがちですが、守りのコミュニケーション活動においては、人事部、総務部も関係します。企業活動のすべてにおいて、ブランディングが関わるのです。

マーケティングとブランディングの違い

マーケティングとブランディング。よく似た言葉ですが、それぞれの目的と範囲は異なります。

  • マーケティングの目的=商品を買ってもらう
  • ブランディングの目的=相手に好意的な感情・イメージを持ってもらう

相手(顧客あるいは伝えたい対象)が商品・サービス・組織に対し、他とは違う「意味のある差」に共感し、ファンになる状態がブランディングのゴールです。

片岡氏は、商品を買ってもらうためのマーケティングと、好意を持ってもらうブランディングの違いをラブレターに例えています。

ブランディングは物を売るため、顧客になってもらうための活動ではありません。ファンになってもらい、相思相愛になることが目的です。そのためには、あえて広告やDMを出さない手法や、(インフルエンサーの活用など)間接的に伝えてもらう手法もあります。

ポイントは「決定権は100%相手にある」ということ。値下げはブランディングの手法ではありません。BtoB企業の場合は、潜在顧客あるいは既存顧客との関係性を磨く活動がブランディングにあたります。(片岡氏)

現代は商品サービスで溢れており、比較・差別化が当たり前の状況下で、対象を好きになってもらうブランディング活動が主流です。物を売るためのマーケティング戦略と、顧客や対象者と関係づくりをするブランド戦略は、両輪で回すことが大事だと片岡氏は強調します。

BtoB企業におけるブランディングのメリット・デメリット

ブランディングは既存顧客の認知度・高感度アップだけでなく、社会全体へ影響する活動です。BtoB企業の場合、長期的な取引が多いため、ロイヤリティが高いほど継続的な契約・購入のほか、他者への紹介などのメリットが考えられます。

一方、ブランドイメージはあくまで相手が主導権を持つため、コントロールの難しさや、イメージ醸成に時間と工夫が求められる点はデメリットと言えます。

ブランディング活動のプロセス

セミナーでは、片岡氏がブランディング支援で扱う4つのプロセスをご紹介いただきました。ただし、一般消費者が対象のBtoC企業と比較し、BtoB企業は顧客層、規模、ビジネスモデルの違いが大きく、目的によって各プロセスで扱うツールや内容は変わります。

これらのプロセスを踏まえて、対象者が思い描くイメージをより良くし、情緒的価値を感じてもらう良質なコミュニケーションがブランディングです。

ブランディング活動が浸透しない6つの背景

BtoB企業のブランディングは特有の難しさがあります。ここからは、BtoB企業がブランド訴求に注力するために超えるべきハードルをお伝えします。

タイプ①「ブランド価値」の重要性が分からない

  • すでに企業名などの認知度が高い大企業
  • 固定客がいる伝統的企業(老舗企業)
  • 「プランドカ=認知度」と混同している

歴史が長く高い認知度を持つ企業の場合、ビジネスが安定している間はブランディングの必要性を感じづらいと思われます。ただし、認知度の高さ=ブランド力の認識は非常に危険だと片岡氏は強調します。

顧客からどのように思われているか、あるいは、採用で学生がどのように思われているか深く考えず、認知度が高いから問題ないと判断するBtoB企業は多くみられます。現時点におけるブランド価値の重要性は、認知度と必ずしもイコールではありません。(片岡氏)

タイプ② 重要性は分かるが “自社”には必要ない

  • 財閥系など有名企業の子会社や関連企業
  • 金融、医療、不動産など参入障壁の高い既成産業、公益社団法人
  • 「自分たちの業種・業態は特別」という意識

有名企業の子会社や関連会社、あるいは参入障壁が高い既成産業など、ビジネスが安定しているためにブランディングの必要性を感じづらい企業も多く存在します。ただし、市場変化や業界全体が傾いたとき、親会社の印象が悪化した時などに大きな影響を受けるリスクがあります。

財閥系や有名企業の関連会社・子会社であるとか、参入障壁が高い産業(公益社団法人、不動産、医療、金融などの分野)では、業態やビジネスモデルが特殊であるためにブランディング活動が必要ないと思われる企業が多いです。ですが、顧客ニーズの変化や、親会社の影響を受けるリスクがあります。子会社であれキラリと輝くブランドの中のブランドは築いていく必要があるでしょう。(片岡氏)

タイプ③ (必要だが)他に優先すべきことがある

  • 起業したばかりのベンチャー企業
  • インフラ業界や重機械メーカー、全国に多くの営業所や代理店、直営販売店などを持つBtoB企業

ブランドの重要性は理解していても、検討する時間的・精神的な余裕がないベンチャー企業や、ブランド以外の要素(営業力、店舗力、人材力)に人的リソースを投入したい企業に多く見られます。

起業後すぐのベンチャー企業は、予算がなく広報力もないことから、ブランディングは後回しにされがちです。また、インフラ業界や重機械メーカー、フランチャイズの飲食店などの業態も同じです。私自身、大手ファストフードチェーンにいましたから気持ちはわかるものの、ブランド力があることで人的リソースの充填や良い人材採用ができるため、短期的に考えてしまうのは危険だと思います。(片岡氏)

タイプ④ 「ブランド価値」向上の「効果」が分からない

  • 費用対効果に厳格な論理性を求める企業
  • 財務部門などの発言権が強い企業

費用対効果が悪いのではないか、定量的な効果測定が難しく、数字が出なければ価値が無いと判断されてしまうケースです。厳格な数字主義、成果主義の企業に多い印象です。

これはごもっともな意見です。結論としては、施策前後のデータを見て判断する形になりますが、あまり短期的な数字主義・成果主義を目的にするのであれば、ブランドよりも販売促進のほうが数字は得られます。効果測定の方法をしっかり説明することが鍵になります。(片岡氏)

タイプ⑤ ブランド施策に浮ついた印象がある

  • 間接費(マージンなど)を極力避ける
  • 「ボッタくりされた」などと過去にマイナスの経験
  • 社外コミュニケーション価値に対する理解不足

過去のマイナスな経験などから、「ブランド」の言葉や施策全体に否定的なイメージを持たれているケースです。試験的にブランディング活動を外部業者へ依頼したものの、思うような結果が得られなかった経験が原因になりがちです。

「ブランド」や「ブランディング」という言葉に、浮ついた印象を持って距離を置く企業もあります。これはメンタリティの問題ですが、こういったときは社内コミュニケーションの価値が大事であることをお伝えしています。企業のコミュニケーション活動の俯瞰図をお見せしながら説明し、小さな成功体験を積みながらアドバイスさせていただくことが多いです。(片岡氏)

タイプ⑥「ブランド価値」向上のコストが高額

  • 代理店などに施策提案を依頼したところ、想定以上に高額だった
  • 価格に対し疑問を持っている

ブランディング施策が想定よりも高額で、価格に疑問を持っているケースです。過去のマイナスな経験や、社外連携の価値をあまり感じていない場合によく見られます。

「ブランディング活動に何千万円も出せない」とお話くださる企業もいらっしゃいます。施策にかかるコストは、活用するツールや手法、費用対効果を高める戦略などで変わるため、必ずしもブランディング施策に多額の費用がかかるものではありません。さらに、アウトソースするから高額(あるいは低価格)で実施できるというわけではないことをご理解いただく必要があります。(片岡氏)

ブランド戦略の「目的」 が伝わる7つの切り口

上記のような状況下のもと、社内で上司や経営者へ提案する際、必ずぶつかる壁は「目的の説明」です。ブランディング活動を何のために行うのか、7つの目的ごとに使える切り口をご紹介します。

①競合との差別化とイメージチェンジ(ポジショニングシフト)

他者との差別化の方向性をわかりやすく伝えるため、現在と理想のイメージをポジショニングマップに示します。そのうえで、理想の姿に向かうためのブランディング活動を検討します。

BtoB企業の場合、競合との差別化は機能的価値や技術力に着目してしまいがちです。ポジショニングマップで俯瞰しながら、顧客目線の価値の違い、競合と差別化ポイントが定まりやすくなります。

例えば、伝統的で古臭いイメージを払拭し、先進的なイメージへシフトさせるためには、独自の売りを明確にし、競合との違いを言語化・ビジュアル化して、情緒的価値として伝えていく活動にチャレンジする形になります。(片岡氏)

事業領域の変化に伴うイメージチェンジ

どんな企業でも、これまでの事業モデルを変えるべきタイミングが来ます。ここで、どのブランドイメージを変更するのか、変更する範囲(ホールディング・自社、事業、カテゴリー、個々のプロダクトまで)を整理しながら考える必要があります。

③広報活動のコスパ・タイパの向上

ブランドイメージが向上すると、社内の連携や体外活動のハードルが下がり、コストパフォーマンスが向上します。実は、社内向けのブランド・コミュニケーションが企業活動に大きく影響すると、片岡氏は強調します。

例えば、ブランドガイドブックなど外部向けにポジティブな情報発信をするためには、担当者のモチベーションや社員ロイヤルティが高くなければいけません。会社全体の広報活動の速度と質をアップさせたいのであれば、社内のモチベーションやロイヤリティの強化は欠かせません。それには、コーポレートブランドの吸引力が求められます(片岡氏)

④顧客の意思決定を迅速化

BtoB企業の場合、顧客の意思決定では「信頼」を重視する傾向にあります。実際、名前や実績、ブランドイメージをよく知っている企業のほうが、そうではない企業よりも選ばれる可能性が高く、意思決定も早いのは想像に難くありません。一般的に、ブランド力の強化が顧客の意思決定に影響すると言えます。

⑤採用活動における優位性の強化

どの企業でも、優秀な人材を得るために「働きやすさ」「活気ある社風」など、働く人の目線に立つ訴求は必須です。採用ブランディングが多くの企業で行われている以上、注力しなければ人材が得られない事態になると考えられます。

⑥社員ロイヤルティの向上

最近はコロナ禍の影響から、社員ロイヤルティが低下し離職率の高さに悩む声を耳にします。生きがいや働きがいを感じられない社員に対し、内外でブランディング活動を行うことで、自社で働く価値やイメージの向上につながります。

⑦株価の安定

企業の社外的な存在意義が認められなければ、結果的に株価への影響が出てきます。機関投資家、ESGKなどが注目される昨今、IR的にもブランドイメージの向上は大切だと考えられます。

ブランドコミュニケーションの手法「ストーリーテリング」

BtoB企業は、一般の方々にとって「他人ゴト」

BtoC企業と比較すると接点が少ないBtoB企業のメッセージは、多くの人にとって他人事になりがちです。この距離を近づける手法のひとつがストーリーテリングです。

例:他人ゴトが自分ゴトになる紙おむつの事例

機能的価値を訴求すれば売れた時代であれば、「吸収力が15%アップした紙おむつ」だけ訴求すれば購入に至りました。しかし、競合商品から選ばれるためには商品力だけでは難しいのが現実です。

そこでこの例では、赤ちゃんの夜泣きと家庭の睡眠不足という社会的課題に着目し、ひとつの解決策としておむつを開発し、親子の悩みに対し研究努力を惜しまない姿勢を伝えるストーリーを伝えました。

「吸収力が15%アップした新商品」の機能的メッセージだけでなく、開発の背景と解決したい社会的課題をストーリー仕立てで伝えることで、伝えたい相手の自分ゴトとしてもらうのが狙いです。

これはBtoC企業で使われる典型的なアウターブランディングの手法ですが、BtoB企業でも十分に応用可能です。

コーポレートブランディング戦略の考え方

ストーリーテリングを含む手法の検討をはじめ、ブランディング戦略を考えるうえで必要な具体的な内容については、プロフェッショナル人材である片岡氏にご相談ください。

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まとめ

ブランディングとマーケティングの違いから具体的な戦略の考え方まで、非常に丁寧に教えていただきました。実際のブランディング活動では、ビジネスにより個別性が高く、時間もコストも必要ですが、数十年から100年先を見据えて事業展開する企業様にとって、内外へのブランドイメージ醸成はますます重要度が高まる分野だと感じました。

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生産技術の向上により、商品やサービスの差別化がより難しくなっている中、
“ブランディング”という新しい付加価値の重要性が高まっています。そして、ストーリーという文脈に人は惹かれ、共感をし購買活動やファン化に繋がっていきます。

しかし、中々ブランディングをする上で、知見やノウハウがあられる方は少なくありません。

成功確率を上げ、最短距離でブランドを築くために、専門性を有するプロフェッショナル人材にご相談してみてはいかがでしょうか。

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