SEMINAR

マーケティング視点で考える、データドリブン経営の実践

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登壇者

株式会社データドリブン・コンサルティング 代表取締役 堀内 公博(ほりうち きみひろ)氏
1999年楽天に入社。サービス・新規事業開発などに従事後、マーケティング部を立ち上げ、グループのマーケティング基盤を構築。
その後、コナミデジタルエンタテインメントにて海外モバイル事業責任者、グローバルマーケティング責任者、
トライトにて執行役員CMOマーケティング本部長、常務執行役員就任。
2023年から株式会社データドリブン・コンサルティングを設立。

レポート

企業活動におけるさまざまなデータを分析し経営判断を行う「データドリブン経営」が注目される昨今、データの可視化に注力してしまい、思うような成果が得られないケースは少なくありません。

当セミナーの講師であり、デジタルマーケティングのプロフェッショナルである堀内氏によると、データドリブン経営には5つの阻害要因があるといいます。これは、組織のあり方やマーケティングの考え方に起因するもので、多くの企業で起きてしまいがちな落とし穴と言えるでしょう。

今回は、データドリブン経営とはそもそも何かを紐解き、実現をさえぎる5つの要因にどう向き合えばよいかお話いただきました。

データドリブン経営とは

データを分析しない企業などない

データドリブン経営とは、各種データに基づいて意思決定をしていく経営スタイルです。ただ、データを経営判断に取り入れない企業とは存在するのでしょうか?

データドリブン経営が注目を集める背景には、経営判断の場面でデータ以外に重視されている要素があるからだと堀内氏は強調します。

「データよりも重要視される人」が、データドリブンを阻害する

堀内氏のこれまでのご経験から、データ以外の要素が重視される場面を2つご紹介いただきました。これらは、データドリブンな経営判断とは言えません。

①有力者の発言

「社長がこう言っているから」など、データではなく人の発言で意思決定がなされてしまう。

②ステークホルダーによるNG

社内の一部や取引先から提案を却下されてしまい、力関係から覆すことができない。

このようなデータに基づかない意思決定に打ち勝つことが、データドリブン経営における1番のハードルであると堀内氏は話します。

この状況をどう打開するのか。これはもう徹底的にデータドリブンで意思決定する組織改革をするしかありません。僕がこれまで見た企業の傾向として、「データドリブンでやれ」と言う上司自身がデータドリブンではないケースがとても多い。トップダウンで、強い意志を持ってやり切れるかが重要だと思います。(堀内氏)

データドリブン経営の実践

伝統的なマーケティングから、デジタルマーケティングへシフトしよう

どうすればデータドリブンな組織体制を作ることができるのでしょうか。これには、伝統的なマーケティングと、デジタルを中心としたマーケティングの違いを理解する必要があります。

伝統的マーケティング顧客の反応を直接得ることができない
TVCMを中心とした大規模なマーケティング投資の成功確率を上げるための手法を徹底的に洗練
デジタルマーケティングアクセス解析など、顧客の反応をデータ化できる
マーケティング施策の実施結果に対する継続的な改善活動

デジタルマーケティングとは、インターネットをはじめデジタル技術を活用したマーケティング手法を指します。多様な情報メディアから一人ひとり異なる手段で情報を得る現代、以前は効果的だった手法が通用しない場面は増えています。

そのような社会状況のもと、デジタルマーケティングを実践するためには、PDCAの高速回転が最も重要だと堀内氏は強調します。

今、どんな企業も「PDCAを回している」と答えるでしょう。ですが、僕から見てPDCAをきちんとできている企業は、はっきり言ってほとんどありません。PDCAを回せているかどうかではなく、競合よりも早く高精度で回せているかが重要なのです。(堀内氏)

データドリブンを阻害する5つの要因と事例

データに基づく判断を阻害する要因は、絶対にやってはいけないものではありません。しかし、やりすぎるとうまくいかない要素として、5つの事例をご紹介いただきました。

責任領域の明確化 – 部門を越えた共有

事業目標が成果につながっていないケースは少なくありません。堀内氏が携わった人材紹介事業の事例では、サービス登録までをマーケティング部が担当し、部内のKPIを登録者数と設定し、ヒアリング以降は営業部門が担当していました。

しかしこのとき、コロナ禍によってエッセンシャルワーカーの登録者が増えており、なかでも無資格で応募しやすい介護分野への人材流入が激しい時期でした。

営業部から「登録者数は増えているものの、質が悪い」という意見が出るほど、サービス登録から入職への転換率が低い状況が続きます。

このように、見込み顧客の創出(登録者を増やすフェーズ)と、顧客を育てる(購買意欲を育てて行動を促すフェーズ)はつながっているにも関わらず担当領域により分断されている状況が、うまく噛み合わない結果につながってしまいます。

そこで、マーケティング部のKPI設定を見直し、登録以降のフェーズにKPIを設け、2つの部門が担当領域を越えてゴールを見据えた施策を考えるようにしました。

このように、部署間の責任領域を共有し、お互いに話す場を設けることが大事だと堀内氏は強調します。

マーケと営業の仲が悪い会社は多いと思います。私はこれまでの経験から、部署間の仲が悪くなる要因は話していないからだと思っています。そこで重要になるのは、責任領域をお互いに共有し、データを一緒に見てディスカッションする場です。責任領域の明確化ではなく、共有が大事なのです(堀内氏)

結果責任重視 – 挑戦は失敗の奨励から生まれる

短期目標の達成に厳しい企業、営業部問をよくお見かけします。しかし、短期間の数字に対し過度に厳しい評価体制は、変化に対応する力を奪う可能性があります。

これは、ある企業の広告宣伝費と顧客獲得CPAの推移をまとめたグラフです。広告宣伝費を増やすとそれに伴いCPAも増加し、利益を圧迫している状況が分かります。これは、担当者への厳しい目標設定に要因がありました。

この企業は毎月、目標への評価を厳しく行っていました。いわゆる、数字にうるさい会社です。

担当者は失敗を避け、確実な結果を求めて過去の成功体験を繰り返すようになります。新しい挑戦が生まれなかった結果、外部環境の変化によりこれまでは上手くいっていた方法では成果につながらず、広告宣伝費だけが増える事態となりました。

堀内氏は、結果は重要ではなく、正しく失敗させることが重要だと強調します。

もし、PDCAのPlanが100パーセント正しかったら、1回きりで終わりですから、回す必要はありませんよね。失敗するから何度も繰り返すのです。

私の経験上、特にマーケティング部のマネジメントは、小さな失敗を早く、意図を持って行うことが重要だと思っています。失敗させないことではなく、失敗を正しくコントロールすること。これができないと保守的で革新が起きない運用になってしまい、先程お見せした事例のような結果を招くでしょう。(堀内氏)

Planに時間をかけすぎる – DCAを何度も回すほうが大事

伝統的なマーケティングでは、「Planをどれだけ正確に行うか」を重視する傾向が見られます。ただし、それはデジタル化が進む以前の話です。当時主流だった考え方は、不確実性の高い現代には合わないと堀内氏は話します。

言い過ぎかもしれませんが、実はPlanとは、「やれば分かることを不確実な情報を元に考える無駄な時間」とも見て取れます。分かるならやってみて、その結果をもとに次の試作を考えられるのがデジタルです。

だからこそ、失敗を許容し、何度もDo、Check、Actionを繰り返すことを重視するのが良いと思います。人は失敗に厳しい環境下にいると、Planに時間を割き、失敗を防いだ証拠作りに注力してしまいます。そうならないためにも、PよりD、C、Aに優先順位を置くことが僕は重要だと考えています。(堀内氏)

ユーザーインサイトは仮説 – ABテストでリアルな顧客行動を把握しよう

ユーザーインサイトは、人の行動の背景にある心理や潜在意識を指す言葉です。顧客が商品購入するときの心の動き、視線、行動の傾向は、さまざまなツールや手法で分析できます。

伝統的マーケティングでは事前リサーチでユーザーインサイトを深く分析しますが、堀内氏はあまり重要視していません。

例えば、大手企業が新商品のテレビCMを打つ場合、綿密な戦略の検討が必要です。そして、できるだけ多くの人が認知し、買ってもらうための最大公約数的な顧客像に向けたクリエイティブを制作します。

一方、インターネット上の広告はターゲティングの精度が非常に高く、顧客の行動、検索キーワードをもとに、一人ひとり異なる広告を届けることができます。

大多数の人が当てはまるクリエイティブを1つ作って伝えるのではなく、多彩な切り口のクリエイティブを個別に伝えられるのがデジタルの強みです。だからこそ、1つのクリエイティブに注力するのではなく、数多く試すことが重要になります。

Googleの検索連動広告を思い浮かべてください。自分が検索したキーワードにマッチする広告が表示されますよね。検索したユーザーがその時、思ったことに合わせて広告訴求できるのです。

もちろん、検索連動広告もターゲットごとにユーザーインサイトを考えなければいけませんが、少なくとも最大公約数の1つに絞る必要は全くありません。たった1つのユーザーインサイトに時間をかけるよりも、クリエイティブの無限の組み合わせを試し、成功率が高いクリエイティブを見つけるためのPDCAを回すべきです。(堀内氏)

売上至上主義 –正しいデータは売上と同等に扱うべき

データドリブンを取り入れたい企業の多くは、大きく3つのデータ分析ツール(顧客管理、データ分析基盤、BIツール)を導入すると考えられます。しかし、使いこなせていないと感じる企業は少なくありません。

堀内氏はこれまでの経験から、ツールを使いこなせない代表的な要因は正しくないデータにあると言います。正しくないデータは、データ管理ツールの外側(=オフライン)で生じてしまいがちです。

日本企業のオフラインの管理は、多くの場合、実績が少ない人によって行われます。例えば、実績がある営業担当は、周囲から確認や注意を受ける機会が少なく、データを入力しなくても売上は変わらないために、データの信憑性を楽観視されてしまいがちです。

一方、実績がない営業担当は、少しでも実績を増やそうとデータに固執し、最悪の場合やっていないこともデータに含めようとします。これらの状況下では、分析するほどデータの信憑性を疑わなければなりません。

堀内氏はデータドリブン経営を、「正確なデータに基づく正しい分析で見つけた成功法則を、拡大再生産して売上を増やす」というサイクルを回し続けることだと表現しています。

不正確なデータの中途半端な分析は失敗の要因になります。「みんな頑張っているのに、売上が上がらない」。このようなときは、売上アップと正しいデータ入力を同列で扱い、評価項目に入れるべきだと堀内氏は強調します。

成長企業に勤めている方から、正しいデータ入力は、売上アップと同じくらいの勢いを持って重点的に取り組んでいると聞きました。同社の強さはそこにあると思います。みなさんも、データの取得は売上に匹敵する重要事項だと認識いただけたらと思います。(堀内氏)

データドリブンで意思決定する組織改革

データドリブンを阻害する要因は、個別に見ればとても細かいことです。しかし、ミーティング中のちょっとした一言が、データドリブンではない意思決定につながってしまいます。

発言力のある人の意見に流されてしまう、失敗を過剰に批判しPlanに時間をかけることを是とする風土などは、これまでの日本企業でよく見られてきました。データドリブン経営は、これらの常識を覆すようで難しく感じる方も多いのではないでしょうか。

しかし、「PDCAをスピード落とさずに高いクオリティで回っているか」を重要視する企業風土が定着するためには、マネジメント層の方々がデータドリブンな意思決定を実践し、メンバーへ示していくしかありません。

部下の提案に同意できないときってありますよね。そんなときに、「それは違うと思う」ではなく、「こういうことは調べたか?」と、部下が見落としている視点を確認し、調べていなければ「そっちも調べてみて」と促しています。

そのうえで部下の考えを判断し、部下が正しければ素直に謝ります。データが出した答えならば僕自身の恥でもないですしね。これが、僕がいつも大切にしていることです(堀内氏)

まとめ

データドリブンと聞くと、データの扱い方や戦略設計に注目してしまいがちですが、それ以前の組織のあり方に失敗要因があるとは考えが及びませんでした。企業風土や通例など、企業ごとに個別のお悩みもあるかと思います。具体的なプロセスについては、ぜひ堀内氏へご相談ください。

経営判断にデータドリブンを取り入れるなら、JOB HUB 顧問コンサルティングへ

マッキンゼーが「The data-driven enterprise of 2025」というレポートを発表していることや、ガートナージャパンがデータ・ドリブンな組織に共通する7つの特性を発表していることからも、近年データドリブン経営の重要性が高まっていることが分かります。
「データを経営判断に取り入れる」と聞くとすでにできていると感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、改めてデータドリブンを阻害する要因を意識してみると、心当たりのある方も多いのではないでしょうか。

パソナJOB HUBでは企業様のデータドリブン経営を支援するプロフェッショナル人材をご紹介しています。
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