韓国最大のIT企業は、社員数は30万人、売上高はGDPの14%以上、グループ上場企業の時価総額は韓国株式市場の25%以上を占めています。この会社がグローバル企業としてここまで発達した裏には、世界で戦える人材を育成する人材育成手法があり、1人の社員に対して1,000万円以上の投資をしているともいわれています。企業が大きく成長するには中途採用で即戦力となる人材を集めるばかりではなく、自社内で人材を育成する方法や制度を確立することも欠かせません。今回は、人材育成のための育成手法や制度設計についてご紹介します。
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海外には人材育成に多くのコストをかけている企業もありますが、日本の企業では、人材育成に対してどのような考えを持っているのでしょうか。
厚生労働省が発表する『平成30年版 労働経済の分析』によれば、日本国内の企業が負担する能力開発費の1社あたりの平均額は、2010年〜2014年にかけて低下が続いていました。しかし、2014年を境に増加傾向に転じることが見込まれています。(※ここでいう能力開発費にはOJTに関する費用は含まれません)。今後、人材不足を強く認識している企業を中心に、人材育成の強化が加速することが予想されます。
人材のマネジメントに対する考え方は企業によってさまざまですが、同調査によれば、「ゼネラリスト・内部人材の育成を重視(39.8%)」「スペシャリスト・内部人材の育成を重視(33.2%)」というデータがあり、内部人材を重視する企業が約7割に上ります。
また、同調査では、グローバルな経済活動を行う企業では、将来的にはスペシャリストの重要性が高まることが予想されています。産業やビジネスのあらゆる分野にデジタル技術が浸透しつつある現代社会では、専門知識を持ったスペシャリストの需要が今後ますます高まることが見込まれます。グローバルな企業はそれを見越し、スペシャリストの重要性を意識していると考えられます。
企業組織における人材育成の代表的なものには、OJTやOFF-JTがあります。OJTとOFF-JTのどちらを選択するかは、社員に身に付けさせたいスキルにより、適宜決定する必要があります。
営業職のように現場で経験を積み上げていく必要のあるものは、OJTによって先輩に付き従いながら研鑽を積む場合が多いです。業務の内容によっては講義やセミナーのような座学では補えない分野が多いので、必然的にOJTにならざるを得ないという事情もあります。
OJTとは対照的に語学研修や資格試験などを通じて人材育成をする場合は、OFF-JTで専門業者によるセミナーを開き、短期集中の講座を社員に提供することがあります。
OJTやOFF-JTのほかに、人材育成の一環として新入社員のサポート制度や人事評価制度、目標管理制度を取り入れている企業も多く存在します。
オンボーディングは新入社員など新しく組織に入るメンバーが、早く組織になじみ、活躍できるようにサポートするシステムです。例えば、同じセクションのメンバーと一緒に食事をして交流を深める、組織の役割ごとにメンターをつけ相談役にするといった方法をとります。新たな組織に入るときには、それまでに所属していた組織と勝手が違い、わからないことや不安なことが発生します。オンボーディングならそれらを素早く取り除き、サポートする体制を整えることができます。
人事評価制度は、あらゆる企業の社内制度に存在し、四半期や半年ごとに上司が部下に対して仕事に対する評価を与えるのが一般的です。通常、この評価の情報は周りにオープンにすることはなく、評価に対応した等級を決定し、それを給与に反映させます。
しかし最近では、新しいタイプの人事評価制度を導入する企業が増えています。スマートフォンが一般化し、リアルタイムに情報共有できる環境が整っているので、日々の細かな業務やプロジェクトごとに評価を加えることができます。四半期や半年と時間をさかのぼることなく、仕事に対するフィードバックをリアルタイムに与えることができる大きなメリットがあります。
評価制度のなかには、上司から部下への評価だけではなく同じチームの複数のメンバーからの評価も取り入れる「360度評価」というものもあります。上司から部下への一方通行な評価基準は、人間としての相性や好き嫌いが反映されることがありますので、そのようなデメリットを防ぐうえでも360度評価は効果が期待できます。従業員同士がお互いの仕事を称賛して報酬を贈り合う「ピアボーナス」と呼ばれる仕組みを取り入れることで、同じような効果が得られる場合もあります。
社員を評価するプロセスや基準は、オープンで明確化されていたほうが社員からの信頼が高まる場合もあります。人事評価制度が信頼され、しっかりと機能していれば、社員のモチベーションが高まりやすくなります。どのような制度が自社にふさわしいか、いま一度検討してみましょう。
目標管理制度も広い意味では、人材育成といえます。目標を設定し、その目標を達成するプロセスにおいて必然的に人間は成長するからです。
最近ではOKR(Objectives and Key Results)という考え方が日本でも広まってきました。まず目標(Objectives)を設定し、その目標を達成するために必要な成果(Key Results)を3つから4つに分解します。その成果を指標として可視化し、目標達成の進捗状況を管理していきます。例えば、目標を「今月の売り上げを100万円」とした場合、「ユーザー数を500人に増やす」「客単価を1000円アップさせる」「顧客満足度を10%高める」といった成果指標を設定できます。自分が向かう方向といまやるべきことが明確になるので、業務効率が上がりやすくなり、人材育成に直結します。
厚生労働省の前掲調査には、OFF-JTや自己啓発支援などの人材育成に投資をした企業において翌年の社員の労働生産性がアップしているデータが掲載されています。また、企業における人材育成の目的としては、「いまいる従業員の能力をもう一段アップさせ、労働生産性を向上させる(81.9%)」「従業員のモチベーションを維持・向上させる(63.0%)」「数年先の事業展開を考慮して、今後必要となる人材を育成する(60.9%)」といったことが挙げられています。このように、人材育成への投資が有益あるいは有望であることを裏付けるデータが存在することから、社員1人ひとりにコストをかけ、人材育成を強化することも、経営上の選択肢の1つとして考えられるでしょう。
参考: