【新規事業】というテーマでのインタビュー企画 第6弾。今回は、サイバーエージェントで新規事業の立ち上げを経験した後、新規事業支援事業を行うGood Things合同会社を立ち上げ、代表を務める寶諸 江理奈(ほうしょ えりな)氏にお話を伺いました。
(インタビュアー:株式会社パソナJOB HUB 加藤 遼)
目次
―はじめに、寶諸さんのご経歴を教えてください。
最初は食品メーカーに入社し、5年間在籍していました。そこで、Eコマースの事業責任者になったのが新規事業に関わるきっかけです。当時は、メーカーが直販をすることはまだまだ珍しく、前例がないからこそどのように進めてよいか、とても悩みました。しかし悩みながらもIT分野で新しいことを始めることの面白さ、楽しさを知ることができました。
その後、サイバーエージェントでは、新規事業に関するWeb開発に大小合わせて15本ぐらい携わりました。この時もまだWebの新規事業は新しすぎて理解されづらいことが多かったです。クラウドファンディングのプロデューサーも担当したことがありますが、立ち上げ当初はどんな事業かわからないという目で見られたこともあります。今とは違いますね…。
Web・IT分野に密接に関わって来ましたが、システム開発と新規事業のプロセスは良く似ていると思いました。
システム開発の進め方は、アーキテクチャーいわゆる根幹になる主軸(システム方針やシステム化の目的)を決めて、チームの役割を明確にし、要件定義やシステム設計といったものをドキュメントに起こし、それらをアップデートしながらプログラミングをするというのが一連のフローになります。
新規事業もこれに似ていて、まず目的やビジネスモデルという事業の根幹を決め、役割に基づいたチーム編成を行い、目標とKPIを立て短中期的に予実管理をしながら活動していきます。また、その後の活動においてもお互いに類似性があると思っていて、システム開発では、蓄積されたドキュメントによってメンバーが成長し、新たな機能の改良や拡張が可能になっていく。新規事業で言えば、それまでの活動によって得られた実績や施策内容といったドキュメントを見ることで、チーム全体の理解度が早まり、さらにそのメンバーがオウンドメディアになって新しい人と接触することでより事業の成長スピードが速くなる。
このようにシステム開発と新規事業のプロセスフローや成長スパイラルが似ているから、私自身に抵抗がないのかもしれません。
―「メンバーがオウンドメディアになって」とはどういうことでしょうか。
オウンドメディア、アーンドメディア、ペイドメディアは「トリプルメディア」と言われていますよね。その中でもオウンドメディアの考え方は自分たちが持っているメディア、例えばコーポレイトサイトやサービスそのものを指すことが多いと思います。しかし外に触れるものすべてが含まれるとなると、社員もオウンドメディアのひとつになります。
新規事業はなかなか周囲から理解を得られない、もしくは ネガティブな目で見られることがあると思います。そのようなマイナスな印象を払拭・解消するためには、まずは 新規事業に携わっている人達がその製品やサービスのことを心から信じて、相手にポジティブに伝えるということが重要になってくると思います。そういう意味で、彼らがオウンドメディアの一翼を担っていると言っても過言ではないと考えています。
―自分のサービスを信頼し、愛するようになるためにはどのようなことが大切でしょうか。
チームでしっかりコミュニケーションを取りフィードバックし合うこと、そして活き活きと仕事ができるような環境を作ること、これを常に意識しなければいけないなと思っています。
この事業に関わって楽しかった、ステップアップになったと思ってもらえるような組織を作ることができれば、次第に商品やサービスに愛着が持てるようになってきます。その組織づくりのためにコミュニケーションを取って、自分を客観的に見て、お互いがどのような想いを持って進めているのかをすり合わせたりすることが大事だと思いますね。
つまりはこれが一緒に働く人達を「ワクワクさせる」ということだと思っています。
ただしコミュニケーションの量ばかり増えては事業としてのアウトプットが減るので、質を重要視することも大切です。
―新規事業に関わる人として大切にしていることを教えてください。
なかなか難しいですが、一方では全体を俯瞰し、他方では細部にまで目を配る、 といった極端な2軸を常に意識し 続けることを大切にしています。
最近のプロジェクトで実際に体験し たことなのですが、社内から期待が集まってあれもこれもやりたいとすべての意見を聞いて進めていたのですが、途中で周りから最近何もやっていないのでは?と思われてしまったことがあるんです。目の前の小さい問題に集中しすぎてしまい、大きな貢献や、周りからの見え方などを考えられていませんでした。数字と感性、マーケットと社内、戦術と戦略、見えるものと見えないもの、大きいものと小さいものなど、両極を見てバランスを取ることが大事だと学びました。
先ほどお伝えしたコミュニケーションにおいても、メンバーの声を聞きすぎると気持ちが寄りすぎて重要度が変わってしまう時があります。そういう時にぐっと堪えて、一歩離れてチームの外の声も聴きながら進めなければいけないですよね。
―両極端を見るという行動を起こすためには、どのような力が必要だとお考えですか。
2つあると考えています。
1つ目に、自分自身の行動をデータ化して見返すことです。
といっても、そんなに難しいことではないんです。私はTODOリストも含め、すべてGoogleカレンダーに入力しています。人生の中で一番コントロールが難しいのは「時間」です。その有限の時間をどう管理するか、どうやってよいパフォーマンスを出すかが重要だと思っています。カレンダーを見返すと、ミーティングばかりの1週間だな、人とたくさん会った1か月だったなとぱっと目で見て振り返れるのでいいです!
2つ目に、物事を具現化(見える化)することです。
テキストだけでもいいし、図が入った資料にしてもいいし、とにかくアウトプットして形にすることです。そうすることで思考が整理され、スケジュール同様に振り返ることができます。またそれを他人に見てもらうことで、化学反応が生まれることもあります。
この2つで自分の行動や考えもデータ化し、あらゆる視点の2軸のバランスが取れているかを定期的に振り返ることにしています。
―行動をデータ化するのは大事なことですよね。1週間、1か月、1年と振り返ると見えてくるものがありますよね。でもなぜ具現化(見える化)することが重要なのでしょうか。
人間のコミュニケーションは基本言葉で行いますが、様々なニュアンスを含んでいて一人歩きしてしまうことが多いですよね。同じミーティングに参加して、同じ言葉を使っているのにそれぞれ違うことを言っていることもありますし…。感覚や意識を揃えるためにも具現化することは重要なプロセスだと思います。さらに、ぱっと見ただけで思い出せるような図にするのが効果的ですね。視覚的な方が、記憶されやすいと思います。
私は、自分自身で事業を起こすことやアイデアを出すことも好きですが、人のアイデアを伸ばすことも好きなんです。新規事業って抽象的なワンセンテンスから始まることが多いのでそれを見える化して、動かしてみると、改善点が見つかる、この作業が好きで得意なんです。
このたたき台があるかないかで、その後の議論の精度に差が出ます。事業アイデアが抽象的な段階でいかに早く具体的な絵が作れるかは新規事業のスピードに大きく影響してくると思っています。
―コミュニケーションを大切にされている寶諸さんにお聞きしたいのですが、新規事業を進めていくにあたり、参画しているメンバーと会社の方針・経営者の考え、そのバランスを取る方法はありますでしょうか。
おっしゃる通り、両者のバランスを取るのが大事だと思います。経営者は事業成長にスピードを出したいと考える方が多いと思いますし、ご自身のやり方を信じてらっしゃる方も多いですが、現場はそのスピード感ややり方が伝わりきらないことも多くあります。
そのためには、このギャップをつなぐことができるアイデアをいかにたくさん考えられるかだと思います。お互いの考え方が違うと諦めるのではなく、どんなに小さくても重なる部分の具体的なアイデアを作ることが重要ですね。
経営者は成功体験があるからこそ、今までのやり方を急に変えることが難しいという人も多いと思います。その人の生き方を否定することはもちろんしないです。ただ、これから成長する会社、生き残る会社はいかに変化に柔軟に対応できるかということは皆さんわかってらっしゃいます。
そのためにも、メンバーに歩み寄って話をして頂くことや、独り歩きしても齟齬がないドキュメントにして考えを共有することが大事です。完璧な資料は負担になるので、80%齟齬がないレベルを目指し、共有のスピードを落とさないのも重要だと思います。
そしてメンバーが経営層と同じ目線に立ちやすい環境をつくることが、結果的にプロジェクトの成功につながると思います。メンバー構成がうまくいっているプロジェクトは進むスピードが全然違いますからね。
メンバーの方は、手を変え品を変え、様々な角度から提案をして、重なる部分を探してほしいです。時事的なトレンドから話を持って行ってみる、ITや技術的な視点にしてみる、この2つだけでも話の方向性が変わりそうですよね?諦めずに、いかにいろいろな切り口でジャブを打てるかどうかかなと思います。
また、社内の仲間を連れていくことも大事ですが、人間関係の構図が確立されていない、自分の会社のことを十分に理解してくれている社外の仲間をうまく使うのも一つの手だと思います。
―新規事業を生み出すことができる人はどんな人だと思われますか?
新しいものにわくわくできる人、楽しむことができる人、というのは前提かと思います。
ただし、自分の信じることをまっすぐに進める人ももちろん大事だとは思うのですが、逆にそれで周りを巻き込むことができずに、チームバランスが悪くなる可能性もあります…。ですから、リーダーとしての姿勢を見せながら、いかにメンバーと協力して、メンバー自身をわくわくさせることができる人か、ですかね。新規事業の立ち上げは手探りで進めることが多く、ストレスがかかる仕事です。その中でも全員が楽しむことができ、事業に関わる誇りを持てるような雰囲気を作ることができるかだと思います。プロジェクトが終わってからも、もう一回このメンバーでやろうとなるのは理想ですね!
―メンバーがイキイキと楽しそうにやっているところを見るのは嬉しいですよね!
リーダーが何も言っていないのに、メンバーが自走し始める瞬間もありますよね!その時は同じ方向を見ていることを感じられてとても嬉しいです!
―自分事として捉えられている証拠ですよね。さらにリーダーに対してそれは違うと叱ってくれるとさらに最高のチームだと思います。
―今後の目標を教えてください。
実は数年前には自分が起業するとはまったく思っていなかったんです…!
会社員の時は、経営者の気持ちが分からず、社内でうまく振舞えていなかったこともあったと思います。経営者の気持ちを理解できればと思ったのも独立した理由の1つです。大変なこともたくさんありますが、そのおかげで、経営者が何を考え、何を目指しているのかがわかってきた気がします。Good Thingsでは自社事業としてEコマースを行なっていますが、そこで得られた結果をクライアント様にも数字で共有する実験場としても行っています。お客様のニーズに合わせて、ITや新規事業の力で、一緒にワクワクするようなことやりたいです!その過程で自分自身のブランド力もあげて、できることを増やして、それをみなさんにまたお返ししたい。そのいい循環をつくっていきたいです!
―最後にメッセージをお願いします!
新規事業の重要なところは、信頼関係を長く築く、伴走者がいるかどうかだと思います。
新しいものを生み出すときは様々な負荷がかかり、担当者はとってもタフな状況だと思います。でも折れないでほしいです。私もそのような方と一緒に、あの人が頑張っているから私も頑張ろうと思えるような、お互いがいい目標であり、かつお互いを鼓舞できるような、そんな関係をつくりたいと思っています。
2001年新卒で食品メーカー(株)メロディアンに入社。新たにECサービス子会社の立ち上げに従事。2007年よりマーケティングに近い業務に携わりたいという想いからサイバーエージェント入社。クライアントワークから事業責任者としてWebサイト制作・Webシステム開発や、当時先進的であったデジタルプロモーションを多数担当し、コミュニケーションやコミットメントの重要性を身につける。
クラウドファンディングサービスにてプロデューサー時は、システムが持つデータと経理・CS・広告運用と言った他部署の連携も担当。越境ECベンチャーを経て2018年にGood Thingsを設立。これまでにPM / POとして20件以上の大・中規模のシステム開発を行う。DtoCサービスも展開(ファッションEC)し、そこで得られた鮮度の高いデータを元に、今に適したプロモーション手法を考察し実践に結びつける取り組みを継続中。
趣味:美術館巡り・飼い猫と触れ合うこと