【新規事業】第2回目となる今回は、株式会社LIFULLにて 地方創生推進部、LivingAnywhere Commons(リビングエニウェアコモンズ)の事業責任者を務める小池 克典(こいけ かつのり)さんにお話を伺いました。
目次
―はじめに、小池さんが取り組まれている新規事業を教えてください。
私は現在、地方創生分野とテクノロジーのスタートアップ分野、あわせて5つの新規事業を担当しております。
地方創生分野では、多拠点型のコリビング「LivingAnywhere Commons(リビングエニウェアコモンズ)」、ワーケーションや国・自治体の事業を行う「関係人口市場創出」、「空き家の利活用」の3つ。テクノロジーのスタートアップ分野では、名古屋工業大学との産学連携事業を行う子会社LIFULL ArchiTech(ライフルアーキテック)の代表、スタートアップの支援出資担当の2つですね。
―5つも担当されていらっしゃるんですか?全部責任者ですか?
はい!(笑)気づいたら5つも担当していましたね…!
―すごいですね!5つもの新規事業をやるに至った背景を教えてください。
私はもともと広告営業として不動産会社を回っていました。3年間プレイヤーを経験した後、マネジメントや部署立ち上げを経験しました。その頃、「LIFULL HOME’S 住まいの窓口」のオムニチャネル店舗型ビジネスを担当しましたが、会社がやりたいことをやるということに飽きてしまったんです。自分のやりたいことをしたい、外の世界を見てみたい、と思い、一般社団法人LivingAnywhereに出向しました。
そこでも、我々がしたいこと、経営理念である「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」を大切にして、さらにいい社会をつくりたいと思うようになりました。代表の井上(編集部注:井上高志氏)と3~4年間に渡って一緒に、あれやろう、これやりたい、プランを書いてみよう、を重ねてきた結果、5つの新規事業の責任者を務めることになりました。
一般社団法人LivingAnywhere は、今も出向していますが、一般社団法人だからこその事業制約などもあるため、しっかりリソースを張って、よりスピードを加速させたいですね!
―なるほど、井上社長と一緒に様々なことに興味を持ち、チャレンジしていく中で生まれてきたアイデアなんですね。
―冒頭にお話頂いた、担当されている5つの新規事業の中で特に力を入れているものの具体的な事業内容を教えてください。
LivingAnywhere Commonsは、場の制約をなくすことで、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方(LivingAnywhere)を実現したいという考えから、遊休不動産を活用したコリビング事業を行なっています。「コリビング(Co-living)」とは、シェアハウスのように複数の人が暮らし、コワーキングスペースのようにさまざまな職業に就く人が一緒に仕事をしながら過ごせる住職一体型の施設のことを指します。働く環境、寝泊まりする環境、コミュニティがあること、この3つが揃っていることが特徴です。保養所や廃校などを活用し、現在は全国に7か所に設置されています。
子会社LIFULL ArchiTech(ライフルアーキテック)は、建築技術によって世界を革進するための技術開発を目的に、名古屋工業大学大学院工学研究科教授である北川啓介先生と共同で2020年1月に設立した会社です。北川先生が開発された着工から完工までわずか数時間で完成する即席の家「インスタントハウス」を使用したプロダクトを提供しています。コストがかからず、誰でも作ることができる家、まさにドラゴンボールの「ホイポイカプセル」ですよね!皆さんわかるかな?(笑)それに近しい技術だなと思って。基礎研究はあったけれども、広める手段がないと困っていらっしゃったので、一緒にグランピング、避難所として事業者や行政に販売しようというお話になりました。
―ホイポイカプセルわかります!(笑)「インスタントハウス」に先ほど入らせて頂きましたが、数時間でできたとは思えない頑丈さと快適な空間が広がっていて驚きました。
―新規事業に関わるメンバーは何人ぐらいいるのでしょうか。
外部の方にもたくさんご協力いただいておりますので、5つすべての事業を足すと300人ぐらいの規模になりますね。
語弊なく言うと、自分が決裁する、ということはないんです。みんなが自由に畑を作っていて、僕自身はそのコンセプトと動きやすさをつくることが重要だと考えていますね。LIFULLは日本従来の部署型の組織からプロジェクト型の組織に変わってきています。
―トップダウン型の組織が多い中、同じビジョンを持った仲間が集まった「コミュニティ型」の組織があって、コミュニティマネージャーのごとく、小池さんが環境整備をしているんですね。まさに未来の組織ですね!
―新しい経営スタイルや事業スタイルで進めていく中、うまくいくコツを教えてください。
僕自身は「この指とまれ」が重要だと思っています。「作りたい未来」を提示して、仲間と一緒に目指すことが大事です。「作りたい未来」がワクワクするものであれば、社内外問わず人は集まると考えています。僕自身の重要な役割としては、人が集まるようなワクワクするコンセプトとビジョンを作ることです。
―まさにビジョナリーリーダーシップ、ビジョンを示して、共感する人が集まったら自然とチームが創られていく。やはり理想の組織運営ですね。
他にも企画のつくり方を大切にしています。「プロジェクトデザイン」といっていいのかな?まずは「ささやきをする」ことです!
僕のスタイルでは、事業を進める時に、はじめから、稟議書、事業計画書を作成する、ということはしないですね。まず、社長の井上や周りの人に、「こんなことやったらおもしろそうじゃない?」とささやきます。そこで「いいね」と言ってもらう、これが初めの一歩です。共感者をつくり、その次にお客さんをつくる、そして企画、という順番で進めています。第1弾の企画の規模は丁寧に見定めます。「Small start is King」ですね、小さくでいいのでまずやってみよう、小さくできることを大切にします。
―たしかに共感してくれる仲間を作るために「ささやき」をすることがポイントですね。
―企画を小さくつくることのメリットを教えてください。
今は先が読めない時代になってきていると感じています。そのため、3カ月間もプランニングをするぐらいであれば、小さなプランを1か月に1ずつ、3個やったほうがいいと思うんです。私もいろいろな事業をやっていますが、正直打率は低いですよ。失敗もたくさんあります。チャレンジしてみたものの、お客さんが集まらない、社内では盛り上がったのに世間では盛り上がらない…。その修正を重ねていくと新しいサービスに転化していく、これが新規事業のおもしろいところであり、進め方なのではないかなと思います。
―たくさんの失敗もあるとのことでしたが、記憶に残る失敗はありますか?
たくさんの失敗といいましたが、私自身は失敗と思っていないので実はあんまりないんです…(笑)
先ほどお話したようにプロジェクト単位で常に修正を繰り返しているため、当初立てた計画が達成しなかったからやめたというものはないですね。ずーっと前に進み続けています。ふと振り返った時に最初のスタートこれだったのか、と気づきますね。
―当初立てた企画もそうですが、収支計画も変動する可能性が高いかと思うのですが、どのように対応していらっしゃるか教えてください。
もちろん収益目標や収支計画はありますが、僕はあまり重要視しておりません。効果測定はいろんな角度があると思っています。おもしろいコンセプトに人が集まる、それでいいですよね!対会社への説明責任に関しても、これもLIFULLのおもしろい特徴ですが、挑戦を重んじるんです。
「薩摩の教え・男の順序」はご存知ですか?今の時代は男性に限ったことではありませんが、評価すべき人材の順序について書かれています。
一番評価されるのは「何かに挑戦して成功した人」、二番目は「何かに挑戦して失敗した人」、一番評価されないのは「何もしないで批判だけしている人」。「挑戦すること」が称賛されるんです。結果が良くないからと怒られることはないですね、結果に関する叱咤はないんです。逆に、「もっと考えられるでしょ!」「思い切ってやってる?」、と言われることの方が圧倒的に多いです。(笑)
―小池さんのようなアントレプレナー、イントレプレナーを生み出すためにはどうすればよいのでしょうか。
たしかに最近、どのように再現性を持たせられるのか、と聞かれることが増えてきましたね。私の考えが変化した二つの転機をお話したら伝わるかなと思います。
一つ目は、配属された地方でのチームの環境ですね。僕、実は入社以前はバーテンダーだったんです!サラリーマンではなかったため、スーツ着てオフィスで働く、という仕事になかなか慣れなくて。最初の上司とも合わなかったんです。当初立てた計画が上手くいかず、目標を変えた時に、上司から「一度決めたことを変えるな」と怒られたこともあり、僕自身はなぜ変えてはいけないのか納得や理解ができないこともありました。その後、地方支店に異動したときのチームがとてもよかったんです。すごく寛容で、結果を出すために自分の考え方でアプローチしていいんだと思えました。その経験から、寛容であることの大切さを知りましたね。
二つ目に、「スラッシュ・トウキョウ(Slush Tokyo)」というスタートアップ企業が集まるイベントの事務局をやったことです。初めて社外の人とワクワクすることにチャレンジしました。「作りたい未来」を作れる、という経験ができました。
―二つの転機で得た経験は、今の組織体制の運営に活きていそうですね。
まさにそうです!意識していることは、まずは寛容に受け入れること。僕はまずメンバーに、「やってみればいいんじゃない?」と伝えます。特異な考えを持っている人、変わっている人、尖っている人が大好きです!来るもの拒まず、まずはその人の考えや行動を受け入れます。ビジョンが明確に定まっていれば、その方法を問うことはしませんね。
―まずはやってみる、それは小池さんが井上社長と何度も繰り返してきたことですもんね。
―小池さんのような人がイキイキできる環境は会社の中であるのでしょうか。
社内ベンチャー制度のようなものですが、社会課題を解決したい、こんなビジネスができるのではないか、という願望やアイデアを実現する新規事業提案制度や、アクセラレーターがついて事業化できるサポートもあります。また、社内だけでなく、LIFULLと協業したい外部の方や学生さんから新規事業を応援いただける「OPEN SWITCH(オープンスイッチ)」という制度を設けています。来期はさらにイノベーションを起こしていくために、社内文化の醸成に取り組もうと考えています。会社という枠にとらわれず、LIFULLに関わってもらえる人材を増やしていきたいですね。
―LIFULLと協業したい外部の人を募集する、おもしろい取り組みですね。新規事業にチャレンジする環境が整っていることを感じます。
―内にこもっているとなかなか新規事業は生み出せないのではないか、とお話を聞いて思いましたが、外に目を向けることの意義を教えてください。
おっしゃるように、特に意識をするのは「外を知る」ですね。自社の常識が社外の常識と一致することはほとんどありません。正直に申し上げると、中核事業の不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S」はまだ業界1位ではありません。LIFULLの中でいいと思っていても、その考えは1位の考えではありません。圧倒的な業界1位であれば成功事例と言えますが、1位でないなら成功事例とは言えない、と考えています。さらに上を目指すためには、「外を知る」べきです。
また、LIFULLだけでやることには価値がないと思っています。他の企業の人と触れ合い、そこでビジネスの話をする。お互いの仕事内容を知ることができると、新しい視点が生まれ、これまでに気づくことができなかった何かに気づくことがある。そのように考えています。LivingAnywhere Commonsでも、大切にしていることは、寝食を共にすることです。これも同じ理由ですね。近い距離に、これまでの自分のコミュニティにはいなかった人がいることで刺激を受け、変化が生まれることに期待をしています。
―小池さんがこれから一緒に働きたい人はどのような人でしょうか。
LivingAnywhere Commonsの世界観を一緒に実現したい人、作りたい人は全員大歓迎です!教えてほしい、学びたいという人はつまらないかな…。リモートワークや他社交流、一緒にテレワークしてくれる人も大募集しています。「あなたの会社の会議入らせて!」「うちのに入って!」「コワーケーションしよう!」がOKな方、ぜひご連絡ください!(笑)隣にいる他社の人と一緒に考えたり、一緒にweb会議に出たり、課題をもっとオープンにしてみんなで共有剤にしたほうが解決につながると思います。「外を知る」をキーワードに他社のメンバーと一緒に取り組み、クリエイティブ性をあげていきたいです!
株式会社LIFULL 地方創生推進部 LivingAnywhere Commons事業責任者・株式会社LIFULL ArchiTech 代表取締役社長・一般社団法人LivingAnywhere 副事務局長 1983年栃木県生まれ 株式会社LIFULLに入社し、LIFULL HOME’Sの広告営業部門で営業、マネジメント、新部署の立ち上げや新規事業開発を担当。
現在は場所の制約に縛られないライフスタイルの実現と地域の関係人口を生み出すことを目的とした定額多拠点サービス「LivingAnywhere Commons」の推進を通じて地域活性、行政連携、テクノロジー開発、スタートアップ支援などを行う。