社外監査役とは、企業の経営から独立した立場で、会社の財務報告や業務の適正性を監査する役職です。本記事では、社外監査役の役割や同じく外部役員である社外取締役との違い、社外監査役と社外取締役の活用方法についてご紹介します。
効率的に社外取締役を選任する方法についても併せてお伝えするため、ぜひ参考にしてください。
目次
監査とは、企業の業務監査や会計監査を行い財務報告の正確性や内部統制の有効性、法令遵守を独立した立場から評価するプロセスです。監査役とは、企業の運営に対する監視と評価を行う役職で、社内監査役と社外監査役があります。
社外監査役が社内出身者から選任されるのに対して、社外監査役とは、経営者や従業員との利害関係がない外部から選ばれます。社外からの独立した視点で監査を行うことで、内部の利害関係に左右されない客観的な評価が可能です。
社外監査役は、企業の透明性を高め、株主や投資家からの信頼を得やすくするほか、コーポレート・ガバナンスの強化、リスクへの早期対応など、経営品質を高めるのに役立ちます。一部の株式会社は会社法により社外監査役の設置が義務付けられています。
株式会社は、株主総会、取締役会、監査役などが必須だと思われていることがあります。しかし、監査役の選任や監査役などで組織される監査役会の設置は義務ではありません。
監査役会および会計監査人を置かなければならない会社は以下のとおりです。(会社法328条1項)
つまり、株式会社でも非公開の会社は監査役の設置義務はありません。また、中小企業でも取締役会を設置していない場合や、取締役会を設置して中小企業会計参与を置いている場合には監査役の設置義務はないのです。
なお監査役会には以下のような設置要件があるため、監査役会の設置義務がある会社では、必ず社外監査役の選任が必要になります。
監査役は3人以上必要で、かつ常勤の監査役が最低1人必要であり、また社外監査役(その定義は後述)が監査役の数の半数以上必要である。
(引用①)
会社法以外で監査役の設置が求められる主なケースは、企業が新たに上場する場合です。上場企業となるプロセスでは、有価証券上場規程に基づき取締役会や会計監査人の設置に加え、監査役会や監査等委員会、指名委員会などのガバナンスを整備する必要があります。
特に、監査等委員会や指名委員会を設置しない場合、企業は監査役会を設け、その中で社外監査役を選任することが要求されます(有価証券上場規程437条)。
これらは、上場企業が透明性と公正性を確保するために設けられています。したがって、上場を検討している企業は、これらの規程を遵守し、適切なガバナンス構造を構築することで、社外監査役の設置を含む一連の要件を満たす必要があります。
監査役の任期は最長で4年です(会社法第336条)。これは監査役全体の任期に関する規定のため、社外監査役の任期も同様に4年です。
取締役や会計参与の任期が最長で2年のため、社外監査役の任期は少し長く設定されているのです。監査役を長く担当することで、監査役は会社の財務状況や経営状態をより深く理解して、効果的な監査が行えるようになります。
なお、社外監査役の任期は、企業の定款や法的要件によって定められるため、実際の任期は企業ごとに異なります。一般的に、1年から3年のことが多く、再任される場合もあります。
社外監査役は、公平で客観的な監査を保証する役割があります。そのため社外監査役のルールは、経営者と近すぎる人を避けて、公平で独立した監査を確保することです。つまり、過去に会社やグループ内で重要な役割を持っていた人は、しばらくの間社外監査役にはなれません。
会社法によると、社外監査役に就任できるのは、社外監査役は以下の条件を満たす人物と定められています(会社法2条16項)。
監査役の役割は、会社の取締役が行う職務を監査することです。監査役は、取締役に近い立場に居て、経営とは独立した立場で取締役の活動を監視します。もし不正や不適切な行為を発見した際は指摘を行い、その責任を追及する役割があるのです。
取締役は、日々会社を公正かつ適切に運営する経営活動を行い、株主の利益を守る責任があります。しかし、株主自身が本当に経営が適切に行われているかを日々詳細に監視するのは難しいことです。そのため、監査役が重要な役割を果たすのです。
監査役のうち、社内監査役は会社の内部事情に精通しているため、詳細な監査ができるものの、社内メンバーのため、監査の独立性が保てているかを対外的に証明しきれません。
一方で、社外監査役は、会社の経営や業務に直接関与していない第三者のため、その独立性が高く評価されます。企業ガバナンスの強化や透明性の向上に大きく貢献するため、大企業や公開会社など株主や市場からの信頼確保が重要な企業にとって不可欠な存在です。
社外監査役と社外取締役は、企業の透明性と株主の利益を守るために会社法で定められた役職で、どちらも企業ガバナンスの確保に欠かせません。社外監査役は財務報告や業務監査の正確性の監査、社外取締役は経営方針や戦略策定に焦点が当たります。
社外監査役 | 社外取締役 | |
---|---|---|
役割 | 第三者視点による企業の監視 | |
企業の業務監査、会計監査 | 経営に対する助言、監督 | |
スキル・知識 | 高度な企業法務や会計の知識 | 経営知識、専門知識など |
報酬 | 常勤:500~750万円非常勤:200~500万円程度 | 600~800万円程度 |
設置人数 | 3人以上、うち2人以上が社外監査役 | 1名以上 |
社外監査役と社外取締役の業務内容には大きな違いがあるものの、どちらも企業の独立性を保つために外部の人材から選ばれるという点では共通のため、それぞれの違いがわかりづらく感じることがあるかもしれません。ここでは各々の役職の違いについて詳しく解説します。
社外監査役は、取締役が法令や定款を遵守しているか、不正がないかの確認を行うことで、企業の透明性と株主の利益を守ります。常勤監査役、内部監査室、会計監査人などとの連携も必要となるため、弁護士や公認会計士などの法律や会計の専門家が就任することが多いです。
社外取締役は、コーポレート・ガバナンスの実現や経営陣への助言、ステークホルダーとの橋渡し、IPOのサポートといった経営に必要な情報の提供を行い、経営の方針や戦略に関する重要な決定に貢献します。そのため元経営者や一定の分野の専門家などから選ばれることが多いです。
社外監査役は企業の透明性とコンプライアンスの確保を目的に業務監査や会計監査を行うため、企業法務や会計に関する高度な知識が欠かせません。特に外部監査役には、常勤の監査役以上に厳しい視点が必須です。そのため、弁護士や公認会計士、税理士など法律や会計の専門家が社外監査役を務める場合が多くみられます。
一方社外取締役は経営を補完するために幅広い視野や知識が必要です。一般的には経営経験者が多い傾向があるものの、弁護士、公認会計士、税理士、金融機関、学者、官公庁、コンサルティングなど経歴はさまざまです。
しかし、企業に必要となる専門スキルを補完するために、経営者に限らず特定の分野に豊富な経験と実績を持つ専門家を社外取締役として迎える場合もあります。
例えばデジタルマーケティングでの新規事業を立ち上げる場合は、戦略の策定、テストマーケティング、コンテンツマーケティングなどの知識を持つ専門家を社外取締役として迎えることがあります。
日本監査役協会が2019年に行った調査によると、常勤の監査役の報酬相場は、500〜750万円、非常勤の社外監査役の報酬相場は200〜500万円程度でした(参考①)。
一方、経済産業省が2019年11月~2020年1月に行った、東証一部・二部上場企業の全社外取締役を対象としたアンケート調査によると、社外取締役の年間報酬額は600~800万円未満が最も多く、全体の21.5%という結果になりました(参考②)。
調査の条件が異なるため一概には比較できませんが、社外取締役の方が社外監査役よりも報酬が高い傾向があります。なお特定の企業における具体的な報酬は、企業が公開する有価証券報告書などで確認可能です。
社外監査役と社外取締役の報酬は、その役割や責任の大きさ、さらには企業の規模によって大きく異なります。特に上場企業は、社外取締役も社外監査役も責任や業務量が大きくなる傾向のため、一概には比較できません。報酬額は企業の業績や役員の経験・スキルに左右され、企業の株主総会の承認で決まります。
社外取締役の報酬について詳しくはこちら:社外取締役の報酬はどう決める?相場や考え方を解説
上場する企業は、少なくとも1名の独立役員を設置する義務があります。この独立役員とは、会社法や施行規則を満たした社外取締役または社外監査役のことです。
上場企業では、少なくとも1人の社外取締役が必要です。また、監査役会を持つ企業の場合、3人以上の監査役の選任が必要で、そのうち半数以上を社外監査役とする必要があります(会社法335条3項)。
監査役が奇数なら最低1人以上、偶数なら半分以上が社外監査役となるため、監査役会では社外監査役が同数か1人多いことになります。例えば監査役が3人ないし4人いる場合、2人以上を社外監査役という状況です。
株式会社の場合、取締役の人数は定款に必ず記載すべき内容ではありませんが、多くの企業の場合「取締役の人数は〇名以内」「社外取締役は取締役会の構成員数に対して1/3以上」などのように、取締役の人数を定款に明示することが多くみられます。
なお、上場会社と委員会設置会社が社外取締役を選任しなかった場合は、「100万円以下の過料」が科される罰則があるため注意が必要です。
社外監査役の選任は株主総会で行われます。選定時には、企業の透明性と責任を高めるために、会計や法律の知識、企業ガバナンスに関する深い理解、独立性を保つ能力など、監査役に適したスキルや経験があるかを考慮する必要があります。ここでは実際に社外監査役を選任する場合に必要となるスキルや経験について解説します。
社外監査役には、企業の透明性を保ち、株主や関係者の信頼を維持するための役割があるため、会計・財務・法務の深い知識が必須です。GAAPやIFRSなど一般に受け入れられている会計原則の理解が深く、財務報告へどのように適用されるかがわかるなど、財務報告書や財務諸表を精査して、企業の財務状況を正確に評価できる能力が求められます。
また、会計原則や財務諸表の解釈に精通していること、企業法務や各種規制に関する広範な知識を有し、法的な規制やコンプライアンスに関する理解も必要です。
社外監査役には、企業が活動する業界の知識も重要です。業界特有の慣習や市場の競争状況、規制や法律の枠組みの知識がなければ、企業の戦略的な判断やリスク管理に対して有効な助言ができません。
例えばIT業界の社外監査役では、ソフトウェア開発のライフサイクルやDXやAI、ビックデータなどのトレンド、データセキュリティとプライバシーに関する法規制、サイバーセキュリティのリスク管理など、IT業界特有の知識が求められます。
業界のトレンドや将来の展望に精通していることで、監査役は経営陣の意思決定をサポートし、企業の持続可能な成長を促進することができます。
監査役の基本的なスキルセットに、企業の日常業務や内部通報に対して迅速かつ正確に事実調査を行う能力があります。企業は日々の事業活動で契約締結や会計処理など多くのオペレーションを行います。調査能力が高ければ、企業内で発生する問題を的確に把握したうえで、会計・財務・法務の知識を活用して企業の財務状況を正しく評価できます。
また、収集した情報を基に事実を把握したあとは、その結果を明確に文書化して必要に応じてステークホルダーに対して効果的に伝えるコミュニケーション能力も求められます。
社外監査役を探すには、日本弁護士会の弁護士情報検索や日本公認会計士協会の公認会計士等検索システムなどが使用できます。また、特定の業種の専門家を探す場合には、人材エージェントを利用する方法が一般的です。
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引用①:日本監査役協会|監査役制度
参考①:日本監査役協会|監査役の選任及び報酬等の決定プロセスについて(P45、46)
参考②:経済産業省|社外取締役の現状について(P34)