近年、「静かな退職」という現象が、多くの企業で注目されています。
静かな退職が増加すると、職場の生産性や活気が失われ、結果的に経営に悪影響を与えることが懸念されます。
この記事では、静かな退職が起こる原因と企業への影響、年代別の見極め方法、そして予防策について詳しく解説します。
静かな退職を回避して、従業員のエンゲージメント向上や、長期的な組織活性化を図るポイントを確認しておきましょう。
目次
静かな退職とは、従業員が退職の意志自体は示さないものの、業務への積極性が失われて必要最低限の仕事のみを行っている状態です。
アメリカで生まれた表現ではありますが、昨今日本でも問題になってきています。
静かな退職の場合、従業員が意図的に労働時間や業務負荷を減らすわけではないために問題が表面化しづらく、企業の対策が遅れがちです。
しかし、静かな退職が進行すると、従業員のモチベーション低下や生産性の減少、職場の雰囲気の悪化など、企業全体に悪影響が生じます。
特に、20代や30代など会社の将来を支える若手社員が消極的な姿勢を取ることで、組織の継続的な成長や新たな発想の活性化が阻害されるリスクもあります。
経営者や人事担当者にとっては、静かな退職の兆候を早期に見極め、迅速な対策を講じることが重要です。
「静かな退職」が増加している背景には、従業員のエンゲージメント低下が大きく影響しています。特に日本企業では、従業員のエンゲージメントが低いことが、静かな退職を助長している要因の一つとなっています。
米国の調査会社ギャラップ社による「エンゲージメント・サーベイ」の結果によれば、日本企業における従業員のエンゲージメントは139カ国中132位と、極めて低い水準にあることが分かっています。
調査によると、エンゲージメントの高い「熱意あふれる社員」の割合はわずか6%であり、全世界平均の23%と比べると大きな差があります。
この数字は、国内企業において従業員のエンゲージメント低下を防ぐ対策がいかに重要であるを示唆しています。(※参考①)
静かな退職が増加している背景には、職場環境や若手社員の価値観の変化が影響しています。
若手社員は、過剰な業務負担や評価制度への不満、昇進への期待の欠如による心理的ストレスから、ワークライフバランスを重視して過度な労働や責任に対して慎重にとらえる傾向が強くなっています。
また、ハイブリッド勤務や完全在宅勤務などリモートワークの普及により上司とのコミュニケーションが希薄化していることも、仕事への意欲低下の要因と考えられます。
静かな退職は、従業員の年代によって異なる影響を企業に与えます。20代では成長の停滞、30代では生産性の低下、40代では長期的なスキルや経験の蓄積に影響する可能性があります。
厚生労働省の令和2年転職者実態調査によると、実際に退職した人の退職理由は以下のとおりです。(※参考②)
年齢 | 労働条件(賃金以外)がよくなかったから | 満足のいく仕事内容でなかったから | 賃金が低かったから | 会社の将来に不安を感じたから | 人間関係がうまくいかなかったから |
総 数 | 28.2 | 26 | 23.8 | 23.3 | 23 |
15~19歳 | 92.2 | 59.5 | 6.6 | 35.3 | 1.1 |
20~24歳 | 22.3 | 25.2 | 23.8 | 22.5 | 38.4 |
25~29歳 | 25.5 | 31.4 | 31.3 | 25.4 | 22.4 |
30~34歳 | 36.7 | 19.2 | 25.5 | 25.1 | 18.5 |
35~39歳 | 25.9 | 25 | 22.90 | 29.1 | 18 |
40~44歳 | 29.1 | 29.1 | 19.5 | 23.3 | 20.5 |
45~49歳 | 29.2 | 20.9 | 26.1 | 19.6 | 21 |
50~54歳 | 26.3 | 26.6 | 17 | 21.8 | 31.9 |
55~59歳 | 24.5 | 26.2 | 25.3 | 17.3 | 22.1 |
60~64歳 | 23.9 | 28 | 13.5 | 5.9 | 22.9 |
65歳以上 | 25.3 | 47.1 | 6.3 | 8.9 | 23.7 |
※離職理由の総数において上位5位までを転載
静かな退職をしている人たちも同様の不満を抱えている可能性があり、年代別に不満は異なるため、企業として離職を防ぐために対策を打っておくことが重要になります。
ここでは、静かな退職が企業に与える影響を、「20代」「30代」「40代」それぞれの年代に応じて詳しく見ていきます。
20代は成長や学びの意欲が強く、企業としても積極的に育成したい層ですが、同僚や友人のキャリアや待遇と比較するなどして、労働条件や賃金、仕事内容に不満を抱えているケースが少なくありません。
特に、意見を言う場がなく職場で実績が積みあがらないなど、活躍できないと感じる状態が続くと、「職場にとって自分は重要ではない」「他人よりもキャリアや成長が遅れている」という不安から働く意欲が低下する可能性があります。
20代の静かな退職が進行すると、スキルの習得が滞り、成長の機会を失ってしまいます。また、将来のリーダー候補となるべき若手社員が消極的な姿勢を取ることは、長期的な人材育成の観点からも大きな損失です。
そして、20代は離職理由として「人間関係がうまくいかなかったから」が最も多く、実際に離職するリスクも考えられるため、早期に対策を講じる必要があります。
30代は企業の生産性やプロジェクトにかかわり、次世代育成や責任ある役割を期待される重要な年代です。
しかし、多くの社員がキャリアの停滞や行き詰まりを感じ、成長機会の不足や不明確なキャリアパスが要因となることがあります。
また、結婚や育児といったライフイベントが重なることで、家庭と仕事の両立や責任の重圧、評価への不満がストレスとなり得ます。
実際に30代の離職理由として「労働条件(賃金以外)がよくなかったから」が多く、ライフイベントへの福利厚生の不足、長時間労働などのワークライフバランスの欠如、評価制度への不満などが考えられ、静かな退職にも影響を与えていることが考えられます。
30代社員が最低限の業務しか行わなくなると、業務の質や効率が低下し、チーム全体の士気にも悪影響を与えます。
さらに、知識やスキルを次世代に継承する役割を果たせなくなり、プロジェクトの継続性や企業全体の成長にも支障をきたすリスクがあります。
40代は豊富な経験と専門知識を持ち、組織の中核としてリーダーシップを発揮することが期待されています。
しかし、キャリアの行き詰まりや評価への不満、成長機会の不足などが原因でモチベーションを失い、40代が静かな退職になった場合、責任ある業務や重要なプロジェクトの質や進行に悪影響となるリスクが高まります。
また、若手社員の指導や育成を担当している40代社員が静かな退職になっている場合、周囲の社員にも悪影響を与え、チーム全体の士気が低下する可能性があります。
上司や先輩社員との人間関係が悪化して知識やスキルの継承が滞ると、職場全体の成長が停滞する要因となります。実際に、20代の離職理由に人間関係をあげる人も多いため(※参考②)、若手社員の定着率にもかかわります。
静かな退職を早期に見極めることは、企業にとって重要な課題です。
静かな退職自体は大きく目に留まるものではないため、兆候を見逃さないように周囲の意見も参考にしながら確認することが大切です。
ここでは、20代、30代、40代のそれぞれの年代において、静かな退職を見極めるための具体的な方法とポイントを紹介します。
20代の社員が静かな退職に向かう兆候は、成長意欲や積極性の低下として現れることがあります。例えば、以下のような様子には注意が必要です。
20代の社員は、キャリア初期段階にあり、自分の貢献が評価されることで自己肯定感を高める傾向があります。キャリアパスが明確でない場合や自由に意見を言えない職場で、自分は何をやっても駄目だと落ち込む結果、静かな退職の傾向が強まります。
30代の社員が静かな退職に向かう兆候は、仕事のクオリティや意欲が以前に比べて落ちている様子に現れることがあります。
30代は責任ある役割を任される一方で、同僚や上司からのサポートが不足していると感じている場合や、仕事量や責任が増える一方で、報酬や評価がそれに見合わないと感じた場合にも、ストレスが積み重なり静かな退職にいたることがあります。
また、結婚や育児といったライフイベントが重なり、家庭と仕事の両立に悩むことも少なくありません。
40代の社員が静かな退職に向かう際は、責任のある業務への関心が薄れ、業務の引き継ぎや部下への指導に消極的になるケースが多く見られます。
40代は職場で大いに活躍が期待される時期ですが、上からの指示と下の部下の間に挟まれて疲弊していたり、若手の活躍や新しい技術に置いていかれる不安を抱えていたりと業務上の行き場を見失いやすくなっている場合があるのです。
組織の構造上、これ以上の昇進やキャリアアップが難しいと達観したり、子育てや親の介護など生活面に不安があったりすると、安定志向が強まり静かな退職に至ることがあります。
静かな退職を防ぐためには、年代ごとに感じている心配ごとに合わせた対策が効果的です。
キャリア支援やワークライフバランスの調整、役割の変更など、一人ひとりの社員にあった対策を講じることで従業員の業務に対するモチベーションとエンゲージメントの向上を図りましょう。
20代社員の静かな退職を防ぐためには、成長意欲を引き出し、挑戦的な仕事を与えることが重要です。例えば、新たなプロジェクトに参加させたり、自己成長のための研修プログラムを提供したりすることで、仕事に対する関心を高めることができます。
また、キャリアパスの見える化を進め、具体的な昇進の機会を提示することで、将来の目標を持たせることも効果的です。
さらに、若手社員が安心して働けるよう、メンタルヘルスケアやカウンセリングの機会を提供し、ストレスを軽減する環境を整えることも有効です。企業は20代社員のニーズを理解して自己実現をサポートする施策を導入することで、静かな退職の予防につながります。
30代社員の静かな退職を防ぐためには、仕事と家庭のバランスを支援したり、キャリアと私生活を両立させる体制を整えたりすることが有効な場合があります。
フレックスタイム制度やリモートワークの導入、育児や介護支援制度の充実を図ることで、安心して働ける環境が構築できるかもしれません。
また、30代は専門知識を高め、キャリアアップを目指す時期でもあるため、資格取得支援やスキルアップのためのトレーニングも有効です。
ただし、過重労働やストレスが原因の場合は勤務時間の調整やカウンセリングの活用を進めます。特に責任感が強く頑張りすぎる傾向がある社員の場合には、心身の健康を配慮したサポートが不可欠です。
40代社員が静かな退職を選ぶ背景には
「仕事内容に満足できない」
「会社の将来性に不安を感じている」
などの要因が潜んでいる可能性があります。
そのため、経営方針や組織の方向性を透明化して、社員が安心して働ける環境を構築することが重要です。仕事内容の適性や希望を踏まえた配属の見直しや役割を提示することで、社員にとって「働く意味」を再確認する機会になるかもしれません。
一方で、40代社員が仕事と家庭の両方で責任を抱えすぎている場合にも配慮が必要です。
働きすぎや業務上の重圧が長引くと、心身ともに疲弊して静かな退職のリスクが高まります。これを防ぐためには、適切な業務量を設定して、負荷の軽減を図る仕組みが必要です。
また、柔軟な働き方を導入することで、家庭やプライベートとのバランスを保ちやすい職場環境を整備することも、社員の満足度を向上させる重要なポイントです。
静かな退職を防ぐためには、外部の視点や専門知識が役に立つ場合があります。
外部のコンサルタントから、以下のような評価や提案を受けることで、静かな退職の予防が図れます。
外部の人材を活用することで、内部だけでは気づきにくい課題を明らかにすることができます。
高度な専門知識と経験を有する外部の専門家に依頼をすることで、企業文化や業務フローを客観的に分析し、企業は新たな視点から改善策の提案を受けることができます。
さらに、外部の人材であれば、上司に言いづらいことでも率直に意見を伝えやすくなる場合もあります。
社内のコミュニケーションが活性化することで、静かな退職の改善に向けた建設的な情報収集にも活かしやすくなるでしょう。
従業員が抱える不満や不安は個人ごとに異なります。年代ごとに抱えやすい悩みの傾向はありますが、会社として従業員の状況を把握したうえで対応が求められることもあるでしょう。
しかし、静かな退職は表に見えづらく、企業が持続的な成長を目指すためには、専門的な知識と客観的な視点を活用する外部の視点を活用するのがおすすめです。
JOB HUB 顧問コンサルティングは、組織体制の見直しや従業員のエンゲージメント向上に役立つ提案を行い、企業が抱える人事課題を解決に導きます。経験豊富な専門家の意見を踏まえて具体的な対策を講じることで、さらなる企業の成長を目指しましょう。
静かな退職やエンゲージメント向上など、人事問題に関して気になることがある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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参考: