近年、企業のガバナンス強化が求められる中で、社外取締役の設置が注目を集めています。
この記事では、社外取締役の基本的な役割から具体的な業務内容、法的要件、報酬相場まで、経営層や法務担当者が知っておくべき情報を体系的に解説します。
社外取締役について詳しく知ることで、自社にとって最適な人材の選定や、効果的なガバナンス体制の構築につながるはずです。
まずは、社外取締役が何をするのか役割についてわかりやすく紹介します。
目次
社外取締役とは、会社との利害関係のない外部から招待された取締役のことです。
通常の取締役(社内取締役)が企業内部の視点で業務執行を行うのに対し、社外取締役は独立した立場から経営を監督する役割を担います。
社外取締役の主な役割は、企業の健全な経営を実現するための監督機能です。
具体的には、取締役会に参加し、経営の重要事項の決定に関与します。企業の事業戦略やビジョンについて、社内では気づきにくい課題やリスクを指摘し、外部の視点から客観的な意見を述べることが求められます。
また、社外取締役は経営陣の業務執行を監督する重要な役割も担っています。企業と利害関係を持たない立場から、不正や不適切な意思決定を防止し、株主をはじめとするステークホルダーの利益を守ります。特に、経営判断が適切に行われているか、リスク管理が適切に機能しているかを監視する役割は重要です。
近年では、2021年の会社法改正により、具体的には、監査役会設置会社であり、有価証券報告書の提出義務を負う公開会社(主に上場企業)は、社外取締役を1名以上設置することが義務付けられました。これは、企業統治(コーポレートガバナンス)の強化と、経営の透明性向上を目的としています。社外取締役の存在は、投資家からの信頼獲得にもつながり、企業の持続的な成長を支える重要な要素となっています。
社外取締役は、定期的に開催される取締役会への参加だけでなく、必要に応じて経営陣との意見交換や各種委員会への参加も行います。また、取締役会や経営陣を通じて間接的に株主との関係を強化することも重要な役割の一つとして位置づけられています。
このように、社外取締役は企業経営のさまざまな場面で、独立した立場からの監督と助言を通じて、企業価値の向上に貢献しているのです。
社外取締役は、企業経営の健全性と透明性を確保するために、以下の3つの重要な役割を担っています。
これらの役割を通じて、企業価値の向上と持続的な成長を支援します。それぞれの役割について、詳しく見ていきましょう。
コーポレートガバナンスとは、会社がルールに従って正しく運営され、株主や利害関係者の利益を守る仕組みです。この仕組みを強化することは、社外取締役の最も重要な役割の一つとされています。
企業内部の人間だけでは、自社の利益追求に偏った判断や不適切な意思決定が行われるリスクがあります。実際に、大企業でも会社ぐるみの不正が発覚するケースは少なくありません。
社外取締役は、利害関係のない独立した立場から経営を監視・監督することで、このようなリスクを未然に防ぎます。取締役会での議論において、客観的な視点から意見を述べ、経営の透明性向上に貢献するのです。
また、不祥事が発生した際にも、早期発見・是正につながる重要な役割を果たします。外部の目による監視機能が働くことで、企業の健全性が保たれるのです。
社外取締役は、株主と経営陣をつなぐ重要な架け橋としての機能も果たします。株主は企業の所有者でありながら、日常的な経営には関与できない立場です。そのため、経営陣の判断が株主の利益に反する可能性も考えられます。
社外取締役は、株主の立場に立って経営を監督し、必要に応じて株主の意見を経営に反映させる役割を担います。また、株主総会などの場で、経営判断の妥当性について説明を行うことで、株主との信頼関係構築にも貢献します。
この橋渡し機能により、企業の持続的な成長と株主価値の向上が実現されるのです。
社外取締役と社内取締役では、その立場や役割に違いがあります。以下の比較表で、その違いを明確にしてみましょう。
社外取締役 | 取締役 | |
立場 | 外部から独立した立場で監督 | 企業内部の人間として業務執行を担当 |
主な役割 | 経営の監督と助言 | 業務執行の意思決定と実行 |
視点 | 客観的で独立した外部視点 | 社内の実務に精通した内部視点 |
利害関係 | 会社との利害関係なし | 会社との強い利害関係あり |
責任範囲 | 経営の監督や助言機能としての責任 | 業務執行の実践的責任 |
社外取締役は社外の役職者であるため、社内の利害関係や人間関係に左右されず、客観的に意見を述べることが可能です。
一方取締役は社内から選任し、企業の業務執行に関して意思決定を行うことが特徴です。社内の人間であるため、企業との利害関係によって判断を下す可能性もあるでしょう。
この違いにより、両者が補完し合いながら、バランスの取れた経営体制を構築することができます。
社外取締役の要件は、日本の会社法(第2条第15号)で定められています。この明確な要件により、社外取締役の独立性を確保し、実効的な経営監督が実現されます。
主な要件としては、主に以下のようなものがあります。
また、社外取締役登記手続きについては、株主総会での選任決議後、以下の書類を管轄法務局に提出する必要があります。
社外取締役の報酬は、その役割と責任に見合った適切な水準に設定する必要があります。経済産業省が2019年11月~2020年1月に行った、東証一部・二部上場企業の全社外取締役を対象としたアンケート調査(※参考①)によると、社外取締役の年間報酬額は600〜800万円未満が最多となっています。
ただし、報酬額は企業規模や業務内容によって大きく異なります。大企業では1,000万円を超えるケースもある一方、中小企業では300万円程度、あるいは無報酬という事例も見られます。報酬を決定する際の主な考慮要素は、以下のとおりです。
近年、日本企業における社外取締役の採用は急速に増加しています。
この背景には、先述のとおり会社法の改正によって、上場企業における社外取締役の設置が義務化されたことが主な要因の一つですが、企業の国際化戦略の進展が大きく関係しています。特にアメリカやイギリスなど、コーポレートガバナンスを重視する国々では、取締役会の過半数を社外取締役とすることが求められており、グローバルな取引展開において重要視されています。
さらに、海外投資家からの要請も増加要因の一つです。
外部からの客観的な視点による経営監視は、投資家にとって重要な判断材料となっており、社外取締役の存在は投資を呼び込む上で重要な役割を果たしています。
女性の社外取締役の増加は、近年の重要なトレンドとなっています。2021年6月の東京証券取引所と金融庁による「コーポレートガバナンス・コード(CGC)」の改訂では、『取締役会における多様性の確保』が明確に打ち出され、女性や外国人などの多様な背景を持つ人材の登用が推奨されています。
この背景には、ジェンダー平等や多様性(ダイバーシティ)を重視する国際的な潮流があります。特に海外の投資家や企業は、取締役会における性別の多様性を重要視しています。
しかし、従来の日本企業では女性の経営層が十分に育成されていなかったという課題があります。そのため、多くの企業が社外取締役として多くの企業では、社外取締役として女性を登用することで、経営の多様性確保だけでなく、女性経営層育成の基盤を整備する取り組みを進めています。しかし、経営者の育成には時間を要するため、登用の割合は限定的です。
社外取締役には、企業経営の健全性を確保するための多様な経験とスキルが求められます。特に重要なのは、経営に関する深い知見と、客観的な判断力です。
具体的に求められる主な経験・スキルは、以下の通りです。
なお、経済産業省が2022年に公開した調査によると、社外取締役として最も多い属性は経営経験者(53.0%)で、次いで弁護士、公認会計士/税理士、金融機関出身者となっています。(※参考②)
企業にとって、社外取締役を設置するメリットには以下のようなものがあります。
社外取締役の導入は、企業経営に多面的な価値をもたらします。特に重要なのは、外部の客観的な視点による経営監督機能の強化です。社内では気づきにくい課題やリスクを早期に発見し、適切な対応を促すことができます。
また、専門的な知見を持つ社外取締役の存在は、経営判断の質を高めます。法務、財務、業界知識など、さまざまな専門性を持つ人材が加わることで、より多角的な視点での意思決定が可能となります。
さらに、国際的な事業展開においても、社外取締役の存在は重要です。特に海外投資家は、社外取締役の有無を投資判断の重要な指標としており、資金調達や取引拡大の機会創出にもつながります。
一方で、社外取締役を設置するデメリットもあります。主なデメリットは以下の通りです。
これらのデメリットは、特に中小企業において大きな課題となり得ます。適切な人材の確保は最も重要な課題の一つです。企業の事業内容を理解し、かつ独立性要件を満たす人材を見つけることは容易ではありません。
コスト面では、社外取締役への報酬支払いに加え、取締役会の運営コストや情報提供のための事務負担など、直接・間接のコストが発生します。年間数百万円規模の報酬は、特に中小企業にとって大きな負担となる可能性があります。
また、社外取締役への説明や合意形成に時間を要することで、意思決定のスピードが低下する可能性もあります。特に緊急を要する判断や、業界特有の事情が関係する案件では、この傾向が顕著になることがあります。
社外取締役を効果的に導入するためには、以下のポイントを押さえましょう。
これらのポイントを踏まえた導入計画を立てることが、社外取締役の効果的な活用につながります。特に重要なのは、社外取締役が十分に機能を発揮できる環境づくりです。経営陣の理解と協力のもと、適切なサポート体制を構築することが不可欠です。
また、社外取締役の導入は一度きりの施策ではなく、継続的な改善が必要なプロセスでもあります。定期的に社外取締役の活動状況や効果を評価し、必要に応じて体制の見直しや改善を行うことが望ましいでしょう。
企業の持続的な成長と価値向上のために、これらのポイントを意識しながら、計画的な社外取締役の導入を進めることが重要です。適切な人材を選び、効果的な運用体制を整えることで、経営監督機能の強化が実現できるはずです。
社外取締役の導入は企業にとって重要な経営課題です。効果的なガバナンス体制の構築と持続的な企業価値向上のためには、自社の状況に合った適切な人材を選任することが極めて重要です。
しかし、自社で適任者を見つけることは容易ではありません。そこで、パソナJOB HUBの「社外取締役・監査役紹介」サービスのご活用をおすすめします。約5,000名の豊富なデータベースを保有し、業界・業種の役員経験者など、高い専門性とスキルを備えた人材から最適な社外取締役をご紹介することができます。
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※参考①:経済産業省|社外取締役の現状について(P35)