セカンドハラスメントとは、ハラスメントの被害者がさらに受ける二次的な被害を指します。セクハラやパワハラなど、ハラスメントという言葉自体は深刻な社会問題としてよく知られるようになり、ハラスメントの防止は企業の義務にもなっています。しかし、具体的な知識がないために、意図せずにハラスメント被害者を傷つけてしまうケースが問題になっています。
この記事では、セカンドハラスメントの具体的な事例やセカンドハラスメントを未然に防ぐ方法、セカンドハラスメントが起きてしまった場合の対応について、詳しく紹介します。
目次
セカンドハラスメントとは、セクハラやパワハラなどを受けた人がハラスメントの被害を相談した結果、相談内容が否定されたり、さらに嫌がらせや中傷を受けたりする二次被害を指します。
セカンドハラスメントの加害者は、自身の行為がハラスメントだと認識しているとは限りません。相談者に対して良かれと思ってあえてそのような対応をしている場合もあるため、自身が気づかないままセカンドハラスメントの加害者になる可能性があります。
既に別の悩みを抱えている被害者にさらなる精神的苦痛をあたえることになるため、セカンドハラスメントについて正しい知識を持つことが重要です。
セカンドハラスメントは被害者と加害者だけではなく、企業にとって重大な問題です。本来ハラスメントを内部告発した人物は「公益通報者保護法」で守られる対象となっています。適切な対応を取らなければ、安全配慮義務違反として損害賠償を請求されたり企業価値が低下したりするリスクがあります。
例えば、ハラスメント被害者の精神的なストレスが増えた場合、職場からの孤立や業務が手につかず生産性が低下する、もしくは退職に追い込まれるかもしれません。現場の人手不足は会社の責任です。生産性の低下や企業自体の持続可能性にも関わります。
また、セカンドハラスメントが無視されたり、正しく対処されなかったりすると組織全体の信頼や協力関係が崩れます。その結果、組織の健全性が損なわれ「何をしても無駄」と思われて職場の雰囲気が悪化、社員の士気が低下するリスクがあります。さらに、セカンドハラスメントについて外部に流出すれば、企業の評判やブランドイメージに深刻なダメージを与える可能性があります。メディアに報道されたり、口コミで広まったりした結果、優秀な人材の採用が難しくなったり、取引先や顧客からの信頼を失う可能性もあります。
セカンドハラスメントは、社内の体制や運用の不備やハラスメントを相談した相手の知識不足などで起こります。ハラスメント被害が否定されたり第三者に漏れたりすれば、被害者は職場での居心地が悪くなり、異動や転職を余儀なくされることもあるのです。
具体的な事例を見ていきましょう。
以下はセカンドハラスメントにみられる具体的な発言の事例です。
価値観の押し付け
不利益の予告
加害者を支持する発言
パワハラ被害の否定
セクハラ被害の否定
セクハラ被害について、同性の上司であれば訴えを理解してもらえるとは限りません。
事例1:セクハラを受けていた女性が、被害を人事部に相談しました。しかし、人事部の担当者が加害者と親しく、もみ消すことになったのです。「この件は社の評判に関わるので口外厳禁」と通知されてそれ以上追及できませんでした。
事例2:社内の不正を発見した男性が、告発に必要な証拠を集めていました。それに気づいた上司が証拠の隠蔽を指示。重要な証拠のメールを削除したり、別の社員に捏造した証言を強要したりしました。被害者は証拠不足で正式な訴えを起こせませんでした。
事例3:育児のため短時間勤務している社員が、先輩や同僚に挨拶しても無視されたり、子どもの体調不良で休暇を申請した際に休みの理由を根掘り葉掘り聞かれたりしていた。上司に相談した際に「社員の混乱を招くから誰にも言わないで」「マナーを守れ」と口止めされた。
事例1:女性社員がセクハラの被害を上司に相談し、上司は「相談内容は秘密にしておく」と言いました。しかし上司が他の社員に話してしまい、職場の噂になりました。別の同僚から「その後セクハラ被害はどうなったの?」と聞かれてさらに苦痛を感じました。
事例2:ある男性社員がパワハラの被害を人事部に相談し、人事部の担当者は「内密に処理する」と言いました。しかし後日、加害者から「余計なことをするな」と職場で強く詰め寄られたのです。男性社員はさらなる精神的ストレスを受け、職場での立場も悪化しました。
事例3:ある社員が先輩社員からのモラハラの被害を同僚に相談しました。同僚は「絶対に誰にも言わない」と約束しましたが、無断で上司に報告。「上司に言えば早く解決に導けると思った」と謝罪があったものの、先輩社員との関係がより悪化したのに加え、職場での孤立感も増しました。
セカンドハラスメントを未然に防ぐには、まずハラスメント自体を予防する必要があります。企業や社員にハラスメントに対する認識違いが起こらないように仕組み化を図りましょう。
ここでは、セカンドハラスメントを未然に防ぐ3つの方法を紹介します。
企業や組織には各々の文化があり、社員の意識改革は簡単には進みません。そのため、セカンドハラスメントを未然に防ぐためには、全社員への教育が有効です。研修やセミナーを通じて、ハラスメントの定義や影響、セカンドハラスメントを防ぐための正しい対応方法を学びましょう。
社員教育で専門家を招くと、最新のハラスメント対策についての知識が共有できるため、社員の意識を高めるのに役立ちます。また、ケーススタディを用いた実践的な研修を行い、具体的な対応策を学ぶことも有効です。
ハラスメントの加害者は、無自覚のまま加害者になっていることも少なくありません。正しい知識を得ることで、自分の行動が他人にどのような影響を与えるのかが理解できるようになるでしょう。また、ハラスメントの被害者には気弱な人や自己主張が苦手な人も少なくありません。全社で共通認識を持ち、嫌なことは早い段階で建設的に拒否できるようになれば、ハラスメントが起こりにくい職場環境が作れます。
セカンドハラスメントを未然に防ぐには、社内でのルール化が必要です。ルールを明確にすることで、社員がハラスメント行為を理解しやすくなり、適切な行動を促すことができます。
「ハラスメントの改善は企業の努力義務」「ハラスメントは社内のコンプライアンス違反」など各々の運用を明文化して、社内での具体的な対応ルールも共有しましょう。
社内ルールを定める際は、労働協約や労使協定で明示すると効果的です。罰則規定の適用条件や処分内容、相談者の不利益な取扱いの禁止などを具体的に定め、従業員に分かりやすく伝えましょう。なお就業規則にルールを盛り込む際には、労働組合や労働者の代表の意見を聴き、労使一体で意見交換の上でルールを決めるとスムーズです。
相談窓口とは、被害者が安心してハラスメントを相談できるように設ける窓口です。社内の人事部や外部の弁護士事務所など、被害者が相談しやすい場所に設置することが大切です。また、相談窓口の担当者は、ハラスメントやセカンドハラスメントに関する知識や経験があり、ハラスメントの相談を受けた場合には守秘義務を厳守しなければなりません。
職場のパワハラやセクハラなどの通報は公益通報にあたります。公益通報者保護法では、民間企業や公益法人、地方自治体など事業者では、公益通報の対応業務を行う担当者を決める義務(常勤300人未満の企業は努力義務)があります。2022年の改正では事業者の体制整備の義務化や通報者の不利益な取扱いの禁止などが示され、罰則規定も設けられているのです。
適切な窓口を設けて正しいハラスメントの知識を持つ人に相談することで、ハラスメント被害者がセカンドハラスメントを受ける可能性が下げられます。
セカンドハラスメントを受けた相談があった場合、まずは相談者のプライバシーを尊重し、相談者をさらに傷つけないように慎重に対応しましょう。また、状況によっては訴訟に発展することがあるため、適切に対応しなければなりません。
以下をポイントとして対応を行いましょう。
セカンドハラスメントが発生した場合、まず被害者の話をしっかりと聞くことが最も重要です。先入観を持たず、相談者が訴える事実関係やハラスメントを受けたときの気持ち、これからどうしたいのかなど、正確な情報把握が必要です。冷静に情報を聞き取りすることで相談者の安心感を高め、信頼関係を築くことができます。
相談者を責めたり、興味本位で相談内容を不必要に詮索したりするのは厳禁です。ハラスメントに該当するかどうか微妙な場合でも、自己判断せず俯瞰的に対応することが必要です。また、面談中にメモや録音などの記録を取る際には、相談者のプライバシーや安心感を損なわないように必ず相談者の了解を得ることが重要です。記録を取ることで、相談内容を正確に保持し、後の対応に役立ちます。
セカンドハラスメントが起きてしまった場合、被害者の心のケアは非常に重要です。被害者は、二重のハラスメントで精神的に大きな負担を抱えています。まず、相談を受ける場合には、通常よりも相談者のプライバシーに配慮し、相談を受ける場所や時間についてもプライバシーが保てるように設定します。また、上司や担当者は、彼らの不安や恐怖を和らげるようなコミュニケーションを心がけましょう。不用意な発言はさらなるセカンドハラスメントにつながる恐れがあります。親しみやすい雰囲気のなかでも傾聴に努めることが重要です。
もしも相談者が精神的に不安定だと感じられる場合には、心理カウンセラーなどの専門家を紹介するのも一案です。そして、被害者が何をハラスメントだと感じ、何故そのような問題が発生したのかは職場の問題点に直結する問題です。被害者の心のケアを徹底するのと同時に、ハラスメント防止のための教育や周知活動に活かすことも重要です。
社内でハラスメントへの訴えがあった場合、企業は事実関係を調査しなければなりません。セカンドハラスメントの被害を受けた人から相談があった場合は、速やかに事実関係を調査する必要があります。人の記憶や証拠は日々失われてしまうため、以下のような順序でスムーズに情報収集を行うことが重要です。
被害者や加害者など関連メンバーから情報収集する際は、判断や指導は不要です。まず信頼関係の構築が何より重要です。また、被害者本人だけの発言ではなく、周囲の人からも話を聞き客観的な証拠を集めると、ハラスメントの因果関係がより明らかになったり同様の被害を訴える人がいたりする可能性があります。また、時間と共に不自然に主張が変わった場所がないか確認することも大切です。
会社は雇用する社員の心身の健康と安全に配慮する義務があります。セカンドハラスメントが起こってしまった場合、組織全体の健全性や生産性に深刻な影響を与える可能性があるため、企業は早急に改善を図る必要があります。
相談窓口の設置をはじめ相談担当者の役割、相談対応手順をはっきりさせる必要があります。また、個々のハラスメントに対しては対応を検討しなければなりません。もし加害者が懲戒に値すると判断した場合はその内容を決め、必要に応じて加害者や相談者について、再発防止に向けたフォローアップを行います。
このように社内体制の改善や構築には、メンタルヘルスやセクハラ、パワハラに関わる法律の知識などが欠かせません。
いずれ社内のメンバーにも知識の習得が必要ですが、社内のリソースのみでの改革が難しい場合は、経験や知識が豊富な専門家に相談するのも有効です。中立的な立場から客観的なアドバイスや法的な知識を提供してもらうことで、的確に改善に導けるようになります。
社内でハラスメントやセカンドハラスメントが起きないように、コンプライアンスの強化を図る場合には、社員教育や社内のルール化、相談窓口の設置などさまざまな対応が必要です。制度はあっても形骸化している場合には、改善が必要となるケースもあります。
このように、人事課題の解決にはさまざまな法律知識が求められるため、社内の人員だけでは対応しきれないことも少なくありません。
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