SEMINAR

無形資産を価値に変える、会社の現在、過去、そして未来を語る統合報告書

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登壇者

株式会社グローバル・リンク・マネジメント 執行役員 サステナビリティ推進部長 小澤 ひろこ 氏
会計監査法人系コンサルティング・ファームにて、企業買収および事業再編のアドバイザリー業務を経験。
その後、新日本有限責任監査法人に入所。CSRや統合報告を中心とした企業情報開示のアドバイザリーを担当。
2012年5月から2018年9月までは国際統合報告書評議会の日本事務局を兼務。
2018年10月より、日本シェアホルダーサービス株式会社にてSR/IRのコンサルティングに従事。
現在は、株式会社グローバル・リンク・マネジメントにて活動中。

レポート

近年、統合報告書は、株主・投資家向けのIRだけではなく、社内エンゲージメントを高めるインナーコミュニケーションや、求職者への理解を深める採用活動などの場面で、自社の取り組みを伝える手段として注目を集めています。

しかし、「統合報告書を作成したものの改善できない」「必要性は理解しているが、何から着手すべきかわからない」といった声もよく聞かれます。

そこで本セミナーでは、これまで数多くの企業情報開示に携わった小澤ひろこ氏にご登壇いただき、統合報告書の本質を掴んだ作り方を事例とともにお話いただきました。

なぜ、統合報告書を作るのか

統合報告書とは

統合報告書は、自社の事業の全体像をステークホルダーに説明するために、財務情報と非財務情報をまとめた資料です。過去の業績報告のために発行する財務諸表とは対象的に、自社が掲げる将来の姿と、その理想を実現する骨太の価値創造ストーリーを伝えるのが統合報告書の役割です。

具体的には、①自社の存在意義と目指す未来、②現在の活動と提供価値、③長期目標と進捗状況を包括的に記載します。

先の見えない時代において、10年から100年もの長期的視野に立ち、具体的かつ説得力をもつ統合報告の作成は非常に難しいものの、挑戦しがいがあるコンテンツだと小澤氏は話します。

国内各社の傾向

統合報告書を発行する企業数をみると、2022年12月時点では872社、2023年12月末の予想は1000社にのぼるといわれており、上場企業では半数近い企業が発行しています。

ただし、業界ごとにばらつきがあります。この状況に対し、小澤氏は以下のように考えると良いと伝えています。

自分たちの業界の状況だけでなく、取引先の業界も見ておくと良いでしょう。発行事例が少ない業界であっても、大口の取引先からESG報告を求められて作り始めたという話を耳にします。やはり、誰を対象にコミュニケーションするのか、立ち止まって考える必要はあると思います。(小澤氏)

統合報告書の手引き

期待される効果:幅広い対象へ、自社のビジョン・根拠・実績を伝えられる

統合報告書は、株主・投資家だけでなく幅広いステークホルダーへの効果が期待できます。小澤氏が支援する経営者の方々は、自社が時代の大きな転換期に直面する中、「イノベーションを実現するのは従業員である」と認識し、統合報告書の内容を社内へ伝えたいという声をよく耳にするそう。

また、統合報告書は採用活動において、社名やブランドイメージから一歩踏み込んだ内容を効果的に伝えることができます。

統合報告書は、経営理念、戦略、実績、将来性を解像度高く伝えるツールです。これにより、株主・投資家の要請だけでなく、採用や営業活動など様々な場面で活用されています。

プロジェクト体制:初年度は組織横断型がオススメ

統合報告書を作成するチーム体制は、組織横断型プロジェクト型(タスクフォース型)の2つのアプローチに分けられます。統合報告書を初めて作成する際、特にコンテンツを一から作成する場合は、組織横断型で進めることが推奨されます。

統合報告は1部門だけで作成することができません。人的資本は人事部、財務報告は財務部など、各部門から情報と意見を取りまとめる場面が必ずあります。会社風土を知る意味でも、まず1年はプロジェクトリーダーを決め、各部署から強力を仰ぐ体制で形を作ってみることが大事です。

まずはリーダーを決めて、1年かけて統合報告書を作ってみましょう。すると、統合報告書のあり方と、コンテンツ・作成プロセスそれぞれの課題が明らかになるはずです。この課題は会社ごとに異なります。ある程度、統合報告の趣旨と自社の課題が見えた段階で、担当者のコミュニケーションが必要なプロジェクト型に移行するのがやりやすいかもしれません。(小澤氏)

統合報告書の基本構成

統合報告書の主要構成は大きく4つに分けられます。これらの項目を言語化し、伝わりやすい形で表現するのは非常に難しく、多くの企業で模索されているのが現状です。今回は事例をもとに、各項で伝えたい内容と表現のコツを教えていただきました。

事例で学ぶ、具体的な掲載内容と切り口

最近はオリジナリティあふれる報告書が増えています。タイトルだけでも、「バリューレポート」や、「インパクトレポート」などさまざまな趣向が見られます。

私たちは誰に、何を伝えるためにこの報告書を作成するのか。この点を踏まえて言語化すると、ステークホルダーに伝えたいこと、伝えやすい表現が整理しやすくなります。ここでは、統合報告書に含まれる項目ごとに、情報整理と伝え方のポイントをまとめました。

▼事例のポイントを整理した資料は、こちらよりダウンロードください。

統合報告書、作成の手順

編集方針の策定

実際に統合報告書を作成する際に、まず重要なことは編集方針の策定です。ここでは、①発行目的、②想定利用者、③他のコミュニケーションツールとの関係を明確にすることがポイントとなります。

統合報告書はコミュニケーションツールです。法定要件を満たすための公式文書とは違い、ステークホルダーとのコミュニケーション戦略を考えながら、事例を参考に制作することが大切です。

特に初めて統合報告書を作成する場合、初年度から想定利用者を決めるのは難しいと考えられます。始めから完璧を目指すのではなく、柔軟に対応すると良いでしょう。

まずは3年、長期的視野で取り組む

統合報告書の作成において、初年度は3年の軸で考えることを、小澤氏はおすすめしています。多くの企業でも、初年度は社内情報を集約し、体裁を整えることに注力しています。

また、統合報告書の作成には関連部署の協力が不可欠です。協力的でない部署との関係構築に苦労することも考えられますし、経営陣の理解を得るための勉強会も必要になるケースがあることから、やはり初年度は作成することを目標にすると良いでしょう。

可能な範囲で、作成した統合報告書を各ステークホルダーに見てもらい、ニーズを把握し資料のブラッシュアップをする流れが理想的です。完璧を求めず、継続性を重視し、この長期的な取り組みを着実に進めていくことが大切です。

社内コミュニケーション

統合報告書の作成後は、株主・投資家・従業員・その他のステークホルダーとの対話への活用をおすすめします。例えば採用目的であれば、内定者に統合報告書を読んでもらい、コンテンツの評価やニーズを聞くのも有効な方法の一つです。

日本企業では、以心伝心や阿吽の呼吸といった暗黙の了解が文化として強く残っています。しかし今後、暗黙の了解が伝わらない場面は必ず訪れます。言語化されていないために、新入社員が疎外感を感じることもあり得ます。これは、統合報告書作成に限らず、今の時代に求められているニーズです。

投資家との対話では、収益性、今期の業績、将来の事業ポートフォリオなど、事業の核心に関する情報を積極的に開示し、理解を促す姿勢も必要な時代だと考えられます。

また、初めての方向けの統合報告書の作成方法を以下よりダウンロード可能です。

▼ダウンロードはこちらから:はじめての方向け、統合報告書の進め方

機能する統合報告書を作るための考え方

企業は今、パーパスや長期ビジョンを掲げ、共感を生み出すことが求められています。2023年度の新卒生へ会社を5年以内に退職する可能性を聞いたところ、60%近くがイエスと答えたというデータもあります。

終身雇用の時代が終わり早期離職率も高まるなか選ばれる会社になるためには、従業員の心を動かすエモーショナルな要素が必要です。

自社が何者で、どこを目指しているのか明確に示し、共感を生み出す共創のストーリーを伝える努力が求められます。その状況下において、統合報告書はインナーコミュニケーションや、採用、投資家・株主とのコミュニケーションでぜひ活用いただきたいツールです。

また、サステナビリティ課題の解決には、企業間のアライアンスが不可欠です。会社の方向性を統合報告書で明確に示せば、他社や業界との連携を円滑に進める一助にもなります。今回お伝えしたポイントを押さえながら、統合報告書を戦略的にご活用ください。

まとめ

統合報告書をコミュニケーションツールとして捉える考え方は、CSR報告書とも会社パンフレットとも異なるために、とても新鮮に感じました。このような新しい取り組みでは、企業ごとに違う課題に直面すると考えられます。そのとき、外部人材も含めたステークホルダーとのコミュニケーションが、より実用的なツールとして機能するための鍵になる点を踏まえ、取り組んでいきたいと思いました。

統合報告書の作成・改善なら「JOB HUB顧問コンサルティング」へ

統合報告書は、あらゆるステークホルダーと対話をするための顔となる資料となります。そのため、中長期のビジョンやマテリアリティ、社会との関わりなど、幅広い観点をもち、会社のストーリーを作成する必要がございます。
自社内で進める際には、経営者の考え方の整理、方針や戦略の策定、各部門間との調整や落とし込みなど、非常に骨が折れるプロセスが多くございます。

だからこそ、外部のプロフェッショナルを招き、進めやすくするための外圧としての役割やリード役としてご活用いただくと、スムーズに統合報告書の作成プロジェクトが遂行されることになるかと思います。
ぜひ、何かお困りごとや悩みごとがありましたら、お気軽にご相談ください。

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