「社員を育成してもすぐに辞められてしまう」「給与額をアップさせたのに離職者が減らない」など、社員の定着率に悩む企業が多く見受けられます。人材の流出がつづけば、採用コストの増加や組織の安定性低下などが危惧されます。また、人材流出に対する適切な効果測定ができなければ、施策を試しても、思うような効果は出にくいでしょう。
当記事では、人材流出に悩む企業様に向けて、離職防止に効果的な方法を厳選して紹介します。優秀な人材の流出を防ぎ、組織の安定化や労働環境の改善を目指したい場合に、ぜひお役立てください。
目次
離職防止の対策が重要視されている背景として、第一に「日本における労働人口の減少」が挙げられるでしょう。日本では少子高齢化が社会問題となり、働き盛りといわれる「生産年齢人口に該当する人」が減り続けているため、以前よりも人材の確保自体が難しくなっています。また、終身雇用制度が衰退した昨今において、「1つの企業で長く働きたい」と考える人も減っています。多くの人が「1つの企業」に執着しなくなった背景も、転職者を増加させている要因です。人材の流動性が増加した昨今において、条件や環境がよい企業には人材が集まり、問題を抱える企業からは人材が流出する流れは当然だと言えます。
人材の流出がつづけば、人的リソース不足によって、「採用コストがかかる」「サービス内容に一定の品質を保てない」といった問題が発生するでしょう。さらに離職者が増加すると、事業継続は困難になるため、企業を存続させる意味でも、離職防止の対策が重要視されています。
厚生労働省が実施した調査によると、就職後3年以内の新卒離職率は「新規高卒就職者が37.0%」であり、「新規大学卒就職者が32.3%」といった結果になっています。つまり、新卒採用を実施しても、3~4割の人材が3年以内に離職している状況です。(参照①)
新卒採用を行う際には、企業は一般的に1年以上の月日をかけるでしょう。就職説明会の実施や採用媒体の選定・活用など、多くのコストや労力も発生します。しかし、わずか3年ほどで離職されると、今まで費やしたコスト・労力に加え、再び採用活動を実施する際のコストや労力も余計にかかってしまうでしょう。
離職防止に向けて適切な対策を講じるには、具体的な離職理由や傾向を知ることが大切です。ここでは、離職者の「退職の引き金となった理由や原因」について、厚生労働省が発表した令和3年度の調査結果を踏まえて解説します。また離職理由は、男女間で異なる傾向が見られます。男女別およびその他の離職理由は、以下の通りです。
まずは、男性の主な転職理由について紹介します。
厚生労働省の調査によると、順位別の内容は以下の通りです。
年代別に見ると、50歳以上は「会社都合」の割合が多くを占めています。一方、20代や30代の若年層では、「仕事の内容に興味を持てない」「職場の人間関係が好ましくない」のような、個人的理由が多く見受けられます。年齢が上がり、プライベート面の責任や変化(結婚など)が増えてからは、個人的理由を我慢しながら働く人も多いと予想できるでしょう。
女性の主な離職(退職)理由について、厚生労働省の調査結果は以下の通りです。
女性は一貫して、「個人都合」の退職理由が多いことも特徴です。若年層は結婚や育児など、ワークライフバランスの両立を求める傾向にあるため、「労働条件の相違」が退職理由に多く見受けられます。育児などが落ち着くミドル層は、ワークライフバランスよりも「人間関係」を重視する人が多く、人間関係の退職理由が上位を占めています。
離職に至った理由は、1つだけとは限りません。複数の理由が存在するなど、離職理由が多岐にわたるケースも、往々にして見受けられます。
たとえば会社に伝えた離職理由が「収入の少なさ」だとしても、ほかに「人間関係への不満」や「業務内容に興味を見いだせない」といった理由が絡むこともあるでしょう。実は常日頃から人間関係や業務内容に不満があり、モチベーションを維持できなくなった結果、現状の収入では割に合わないと考え、「収入の少なさ」を離職理由にした経緯が存在することもあります。
上記のように、複数の離職理由が存在する可能性も念頭に置きつつ、離職に関する情報を網羅的に把握する姿勢が大切です。離職理由を申し出た社員に対しても、本音と建て前が存在することも、忘れてはいけません。
離職防止の必要性や男女別の主な離職理由について解説しました。実際に離職防止をするには、どういった対策が必要なのでしょうか?具体的な対策内容は、以下の通りです。
先述で紹介した主な退職理由は、あくまで一般的な内容であり、すべての企業に該当するとは限りません。自社の退職理由を知る確実な方法は、現場のリアルな声を調査することです。リアルな声を通じて「退職に至った本音」が明確になれば、解決策を講じられるため、次に活かせるでしょう。
また、自社の主な退職理由を知るには、退職者に対するヒアリングがオススメです。退職の手続きが完了したタイミングで、ヒアリングを実施するとよいでしょう。また退職者は、ネガティブな思いを抱えるケースも多く見受けられます。ヒアリングでネガティブな意見が出た際に否定をすれば、本音を話してもらえなくなるため、相手の意見を否定せず真摯に受け止める姿勢が必要です。
残業や休日出勤など、長時間労働が日常化している現場では、長時間労働の削減に向けた迅速な対応が求められます。長時間労働が横行すれば、従業員の心身に支障が出る可能性もあり、離職にもつながりかねません。また拘束時間が多い現場では、従業員の意欲が失われがちであり、生産性も低下する傾向にあります。
加えて昨今では、「ワークライフバランスの両立」や「働き方の多様化」が叫ばれているため、長時間労働が常態化する現場は、応募者が集まらない可能性もあるでしょう。
長時間労働の削減方法の例として、アナログ部分のシステム化や、適切な人材配置による効率化などが挙げられます。長時間労働への対策が形骸化しないよう、長期的に実践する姿勢も必要です。
適切な評価制度は、公平性を確保できるため、従業員の納得度を高めることができます。納得度の高い評価が実現できれば、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高められることから、離職率の低下が期待できるでしょう。
上司の好き嫌いといった主観が反映しないよう、評価制度を整えれば、公平な評価が実現しやすくなります。そのためには、評価結果や根拠を可視化できる「人事評価システム」などを導入するとよいでしょう。また、評価結果を給与額に反映できる報酬制度を整備し、各自の報酬に反映すべく等級制度なども必要です。自身の頑張りが報酬に直結すると、さらに意欲が高まりやすいことから、人材流出の防止につながります。
単純に給与をアップすることももちろん効果はありますが、待遇を決めるための評価基準を明確にすることも重要です。「給料等収入が少なかった」ことを理由に離職する従業員の多くは、評価基準が分からず不当に低い評価をされていると思い込んでしまうケースも少なくありません。そこで、評価基準をオープンにし、従業員間で不公平感が出ないよう、納得したうえで待遇を決めるようにします。
福利厚生は、家賃補助やレジャー施設の割引といった金銭面のサポートをするものだけではありません。資格取得サポートや新たな業務への教育サポートなど、自己実現や仕事に対し、直接的にモチベーションアップとなる福利厚生の充実も離職率低下に大きな効果を発揮します。また、集中して業務ができる設備やゆったりと落ち着いて休憩できる設備を整えるなど、快適に働ける職場環境の改善も欠かせません。
多くの場合、職場の人間関係で悩んでしまう原因の1つとして、コミュニケーションが不足していることが挙げられます。そのため、上司がこまめにコミュニケーションを取るようにすることで、いつでもフォローできる体制であることを従業員にしっかりと伝えるようにしましょう。
業務に対するモチベーションをアップさせることは、離職率防止に大きな影響を与えます。そこで、上司と部下で目標を共有し、そのプロセスを評価基準とするMBO(Management By Objective:目標管理制度)、企業、部署、個人で目標と成果指標を設定し、同じゴールを目指すOKR(Objectives and Key Results:目標と成果指標)、そして、従業員が主体性を持って働ける環境であるホラクラシー(フラットな組織形態)などを取り入れ、常にモチベーションを高く保つための働き方へと改善していくことも、離職率低下の大きなポイントとなるでしょう。
こちらの記事もおすすめ:高いモチベーションをキープし、MBOを成功させるポイント
離職防止を考える際に、意外と盲点になる部分が「上司や管理職のマネジメントスキル向上」です。多くの企業は、離職率の低下を目指すべく、社員へのアプローチや対策は積極的に実践する傾向にあります。しかし、社員に対してアクションを行う「上司や管理職」のマネジメントスキルが不足していれば、適切な対応ができない可能性もあるでしょう。
また、上司が部下に行う不適切な対応(無自覚なハラスメントなど)が、離職者を増やす事例は多いものです。離職者が相次ぐ状況に加え、社内のコミュニケーションも衰退すれば、人材流出の速度も加速しやすくなるでしょう。
とはいえ、周囲のメンバーが「上司の不適切な行動」に気づいても、本人に対して直接的な指摘は難しいことも実情です。そのため、上司や管理職のマネジメントスキルを磨くには、部下を管理する立場のメンバーに対し、定期的なマネジメント研修を実施するのが効果的です。
社員の離職を防ぐには、社員側とマネジメント側の双方に対し、適切な対策を行うことが大切だとわかりました。社員の離職対策を行わない場合には、以下のようなリスクが考えられます。
離職者が相次ぐ状態になれば、必要な人材を確保できないため、採用活動を実施する頻度が増えるでしょう。頻繁に採用活動を行えば、当然、採用に費やすコストも増えます。また採用コストは、採用広告の利用などで発生する「外部コスト」のほかに、採用面接官の人件費や内定者との懇談会費用といった「内部コスト」も発生することが特徴です。
採用コストは、新卒・中途採用ともに「1人当たり100万円」ほどかかるため、1人でも離職者を減らす努力が不可欠です。
従業員が離職し、新たな人材も育成できなければ、組織内の知識やスキルの喪失が懸念されます。組織内に知識やスキルが蓄積されない状況は、業務の停滞や商品・サービスの品質低下にも直結するでしょう。一定の品質を維持および提供できなければ、組織の生産性が低下するため、市場競争に遅れる可能性が大いにあります。
最悪の場合には事業継続が難しくなり、事業停止や廃業といった事態にもなりかねなせん。
社員の離職理由が、長時間労働や劣悪な労働環境である場合、在籍中の社員も労働環境に不満を抱えている可能性があります。労働環境を改善できず、社員に不満を与え続ければ、当該社員が退職するのも時間の問題です。現状の劣悪な労働環境に対し、人材流出による人手不足が加われば、労働環境のさらなる悪化が懸念されます。労働環境がさらに悪化すれば、人材流出の速度も加速するといった、「負の連鎖から抜け出せない状況」が予想できます。
離職率が高い企業は、一般的に「マイナスな視点」で見られがちであり、企業のブランドイメージも低下する傾向にあります。ブランドイメージが低下すれば、応募者の減少も予想されます。またブランドイメージの低下は、求職者だけにとどまらず、顧客や消費者にも影響があるでしょう。印象の悪い企業とは「取引を控えたい」と考える企業や、「商品やサービスの利用を辞めよう」と考える消費者も現れるからです。
離職防止を目指す場合に、目先の対応だけでは意味がありません。人材流出の根本的な原因を把握し、原因の解決に結びつく適切な対応を講じることで、離職防止につながるからです。立派な家を建てても、土台に不備があれば崩れるように、離職者防止も「土台から見直す」必要があります。
そのため、まずは自社の「離職の要因」を明確に把握し、問題解決につながる施策の用意が必要です。問題解決に向けて施策を定めたら、施策の成果を定期的に評価するとともに、継続的な改善も欠かせません。
離職につながる要因を把握し、適切な解決策を導きたい場合には、株式会社パソナJOB HUBが展開するJOB HUB 顧問コンサルティングの活用がオススメです。JOB HUB顧問コンサルティングでは、各企業の課題解決に適したプロフェッショナルな顧問を紹介します。人材流出問題をはじめ、人事制度の構築から運用・組織開発・評価者の育成など、多岐にわたる企業様の人事課題に対応し、積極的に貢献した実績があります。
内野株式会社様では、新型コロナウイルスを契機とした外部環境の変化を受け、10年後を見据えた人事制度の変革を希望されていました。当時の内野株式会社様における人事制度は、年功序列が前提であり、「若手が育ちにくい」「社員の平均年齢が高く、業務が硬直化する」といった悩みがありました。
とはいえ、社内には人事制度構築のノウハウが不足しており、当時のリソースでは対応できなかったことが実情。そのため、外部人材を導入すべく、JOB HUB顧問コンサルティングの導入を決意されました。顧問を導入した結果、短期間での人事制度変革が実現し、人事制度のベースとなるジョブスクリプトの作成にも成功。適切な人事制度の構築によって、若手社員の育成や採用につながり、外部環境の変化にも強い企業体制が確立したとい言えます。
また、顧問という「外部の知見」を導入したことで、変化に前向きな社員も増加しました。変化への前向きさは、モチベーション向上に寄与するケースも多く、人材流出の防止や生産性向上にもつながります。前向きでモチベーションの高い社員が増えれば、職場環境を良好に保ちやすく、さらなる離職防止も期待できるでしょう。
離職防止には、自社の人材流出につながる原因を把握し、適切な対策を講じることが大切です。適切な対策を講じることができれば、離職率低下によって組織の安定化をもたらし、企業の持続的発展にもつながるでしょう。とはいえ、人材流出の適切な施策を講じるには、離職率低下に関する知見が必要であり、定期的な効果測定などの知識も必要です。
社内に離職率防止を実現できるリソースが不足する場合には、外部人材の活用を推奨します。JOB HUB顧問コンサルティングは、企業様が抱える課題を解決すべく、秀逸な人材を紹介するサービスです。離職防止に関する豊富な知識を持つ顧問のなかから、自社の課題解決に適する人材をご提案。人材流出防止に対する施策はもちろんのこと、施策実行後の運用フェーズまでサポートするなど、トータル的な視点で企業様の課題を解決に導きます。
離職防止に向けた適切な対策を講じ、現状の改善および発展を目指す場合には、JOB HUB顧問コンサルティングをぜひご活用ください。
参照①:厚生労働省
参照②:厚生労働省_令和3年雇用動向調査結果の概況
参照③:厚生労働省_令和3年雇用動向調査結果の概況