定年延長の義務化に際して、「義務化されるタイミングを知らないと、会社として対応が遅れてしまうのではないか?」といった不安を感じていませんか?
義務化に伴い、「現行の雇用制度や人件費にどう影響するのか?」や「延長後のシニア社員をどう活用すればいいのか?」など、具体的な方法を知っていないと計画を立てづらいため、早めに情報を確認して対策をしておくことが大切です。
本記事では、定年延長の仕組みや企業にとってのメリット・デメリット、シニア層人材の活用方法などについて詳しく解説します。
目次
定年延長とは、従業員の定年年齢を企業が引き上げることです。昨今の少子高齢化による労働人口の減少を受けてその必要性が高まっています。
これまで多くの企業が60歳を定年と定めていましたが、少子高齢化や労働人口の減少など、社会の要請に応える形でそれ以上への引き上げが進んでいるのです。
企業にとっても、定年延長は熟練した人材の経験や知識を長く活用できるメリットがあります。こうした動きは、年金支給開始年齢の引き上げに伴う生活支援の側面もあります。
定年延長を通じてシニア層が社会で活躍する場を提供し、企業の競争力強化にもつながると期待されています。
企業にとって定年延長がいつから義務化されるのかも気になるところではないでしょうか。
ここでは、定年延長の義務化に関する最新情報をみていきましょう。
現在の日本では、企業に対して「65歳までの雇用継続措置」の義務が課されています。
この義務は2025年4月から完全施行される予定で、以下の3つの方法のいずれかを選ぶ形で対応する必要があります。(※参考①)
現在では、多くの企業が「継続雇用制度」を導入しており、この措置により60歳以上でも労働市場での活躍が推奨されています。
2021年に改正された高年齢者雇用安定法により、65歳から70歳までの雇用機会確保について企業に「努力義務」が課されています。この努力義務では、以下の対応が期待されています。(※参考②)
これらの施策により、70歳までの就業機会が増加するとともに、高齢者の経験を活用した新しい働き方が広がることを目指しています。
定年延長は、企業が定年年齢を引き上げる制度です。
通常、企業は従業員の定年を65歳まで延ばすことができます。これにより、定年を迎える年齢に達した従業員が引き続き同じ企業で働くことが可能になります。
この場合、従業員は通常、役職や給与が維持され、通常の社員と同じ待遇を受けることが期待されます。
再雇用は、定年を迎えた後に再び雇用契約を結んで働き続ける形態です。
この場合、従業員は定年後に企業との契約が終了し、その後再雇用される形になりますが、その内容は定年時の仕事とは異なる場合があります。
再雇用時には、役職や給与が変更されることが一般的で、以前の業務を続けることは少ないです。
再雇用の契約期間は通常、短期契約(1年ごとの更新など)であることが多く、従業員の仕事内容や待遇が変更されることが一般的です。
定年延長は高齢者の就業を継続する手段として広く使われていますが、再雇用は雇用形態の変化に伴う新たな契約を結ぶため、労働者と企業にとって双方の合意が必要となります。
定年延長により、シニア層の人材を活用することで大きなメリットが得られます。
シニア人材は、豊富な知識や経験、高度なスキルを活かして活躍できる人も多く、新入社員や若手社員の育成にあたることも可能です。熟練した社員が人材育成を担うことでセミナー等にかかる費用を抑えて業務や課題解決能力、技術力を習得することができます。
また、ベテラン社員が重要な意思決定やトラブル対応に即戦力として対応すれば、長期的な経営基盤の強化が図れます。
さらに、シニア層の活用は、多様な価値観や視点を取り入れた職場環境の形成にも貢献します。世代間の相互理解を深め、チームの結束力を高めることで、職場全体のコミュニケーションが活性化されます。
なお、条件が合えば、特定求職者雇用開発助成金や高齢者雇用助成金などの支援を受けられる可能性があります。
定年延長後は以前の定年に戻すことが難しいため、デメリットを事前に把握しておきましょう。
年功序列型の賃金制度を導入している場合、年齢が高くなるほど賃金も高くなり、退職金も勤続年数に連動する傾向があります。定年延長を導入して勤続年数の高い労働者が増えると、支払うべき賃金が多くなり企業の負担になります。
また、ベテラン社員が多数いることで、経験の少ない社員の活躍の場が奪われたり新規の採用を抑えたりする可能性があります。
定年延長により希望者は誰でも働く機会が得られるため、健康状態や体力面、勤務態度、成績などに課題がある従業員も雇い続けざるを得ないという問題が起きる可能性があります。
さらに、60歳以上の労働災害発生率は、30代と比較すると男性は約2倍、女性は約4倍に高まります(※参考③)。
一時的に業務効率が上がったとしても、将来的に事業継続性が損なわれる恐れがある点に注意が必要です。
定年延長後もシニア層が活躍するためには、いくつかの能力が求められます。
ここでは、組織内での役割をしっかりと果たし、若手社員の指導や組織全体の成長に貢献するために必要となるスキルの概要と具体的なスキル習得方法について解説します。
職場の変化に柔軟に対応できる適応力は、年齢に関係なく重要なスキルです。
定年延長後も活躍するためには、これまでの経験を活かしつつ、業務内容の変化やテクノロジーの進化など新しい知識を積極的に取り入れる姿勢が不可欠です。
例えば、部門の異動や新しいプロジェクトへの参加が求められる場面などで、柔軟に対応することで、若手社員にも模範となることができます。さらに、社内研修や外部セミナーへの参加も柔軟性を高めるために有効です。
新しい技術や業務への対応力を磨くには、学び続ける姿勢と実践を通じた経験が重要です。小さな挑戦を積み重ねることで、年齢に関係なく柔軟に対応できる能力が自然に身につきます。
シニア層が職場での連携を円滑に進めるためには、優れたコミュニケーションスキルが求められます。
特に、若手社員や他部門との調整を担う場面では、経験豊富なシニア層のサポートが組織の調和を保つ役割を果たします。また、年齢差や価値観の違いを理解し、柔軟に対応することで、若手社員が意見を出しやすい環境を整えることも重要です。
コミュニケーション能力を磨くには、聞く力と伝える力をバランス良く育てることが重要です。若手社員や他部門のメンバーに積極的に話しかけるなど、オープンな姿勢で聞くように習慣づけることが大切です。また、要点を簡潔に伝えるなど明確な伝え方を心がけることでコミュニケーション能力を磨きましょう。
シニア層には、長年の経験を活かしたリーダーシップや若手社員を指導する力が求められます。シニア層は、職場での知識やスキルを次世代に引き継ぐ役割を担うことが多く、特に現場でのリーダーシップが重要です。
また、指導力を発揮することで、若手社員の意欲を引き出して彼らが自信を持って業務に取り組むサポートが可能です。リーダーシップと指導力を養うためには、コーチングスキルの習得や、リーダーシップ研修への参加も効果的です。
若手社員の指導役として貢献するには、単なる経験の共有だけでなく、若手社員の視点に立った指導方法を意識することが重要です。成長を見守りながらも自立を促す支援を行い、組織全体の力を引き上げる存在を目指しましょう。
現代の職場では、デジタルスキルが欠かせません。業務のデジタル化が進む中で、シニア層も基本的なITツールやシステムを活用できるスキルが必要です。
たとえば、社内で使用するクラウドソフトやデータ管理システムの基本的な操作、メールやオンライン会議ツールの活用といったスキルが求められます。ITに不慣れなシニア層に対しては、社内でのIT研修や無料のオンライン学習プラットフォームなどを活用し、日常業務でITツールを積極的に使ってみることが重要です。
デジタルスキルが向上することで、業務の効率化が図れるだけでなく、若手社員とのコミュニケーションも円滑になり、職場全体での協力体制が強化されます。
今後の定年延長に向けて、多くの企業がシニア人材の育成と活用の必要性を認識し、その対応を検討しています。
定年延長によって、シニア層が職場で引き続き活躍するためには、今まで培った能力をさらに引き出す人材育成が欠かせません。シニア層が新たな役割や職務に適応できるよう、リスキリングやアップスキリングを通じた能力開発が求められています。
例えば、リーダーシップ研修やデジタルスキル向上を目指したITトレーニングを通じて、リスキリングやアップスキリングを推進することが重要です。また、シニア層が若手社員を効果的に指導し、組織全体の成長を支援できるようなサポート体制を整備することが必要です。
また、シニア層が若手社員を指導できるようなサポート体制を整えることで、組織全体の成長を促進することができます。
企業が定年延長を実施する際には、政府による各種助成金や支援制度の活用が可能です。これらの助成金は、シニア層の雇用維持や環境整備をサポートするもので、経済的な負担を軽減しつつ、持続可能な雇用の実現を支援するのに役立ちます。複数回申請できるものもあるため、要件についてよく確認しておきましょう。(※参考④、※参考⑤)
高年齢者向けの雇用管理制度の整備等に係る措置を実施した事業主に対して助成するコースです。企業が定年を引き上げたり、再雇用制度を整備したりする際に利用でき、シニア層の雇用維持を促進します。
例えば、60歳定年を65歳に延長する場合や、新たに70歳までの就業環境を整備する場合にも、助成金が適用されることがあります。
65歳以上への定年引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかを実施した事業主に対して助成するコースです。
支給額は、対象被保険者数と定年等を引き上げる年齢に応じていくつかのパターンがあります。
50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させた事業に対して助成するコースです。
企業がシニア層の安定的な雇用を支援するために無期雇用を導入する場合、この助成金が支給されます。なお、無期雇用転換計画は、実施時期が明示され、かつ有期契約労働者として締結された契約に係る期間が通算5年以内の者を無期雇用労働者に転換するものに限られます。
60歳から64歳までの高年齢労働者の処遇改善を目的に、賃金規定の改定など雇用の質を向上させる取り組みに対して支給される助成金です。
シニア層の賃金を引き上げた場合、労働者個人が受給する高年齢雇用継続基本給付金が減額されることがあります。この助成金は賃金規定改定後の賃金が減少した場合に、その減少額に一定の助成率をかけた金額を支給します。
支給額:賃金減少額の2/3(中小企業以外は1/2)
支給条件:A-Bの差が一定基準を満たす場合
企業が定年後のシニア層を活用するには、労働環境や役割分担、キャリアパスの再設計が重要です。例えば、役割や働き方の見直し、人材育成、評価・報酬制度の調整など職場環境の整備に加えて、ITスキルやリーダーシップを高める研修などにより、シニア層が新たな役割に適応しやすくなります。
なおこれらの取り組みをより効率的に進めるためには、人材コンサルタントやキャリアコンサルタントによる支援、外部研修機関やオンライン学習プラットフォームなどを活用するのも一案です。
65歳以上の雇用確保義務化により、企業はシニア層の雇用を拡大するための働き方改革や人材育成を行う必要があります。
しかし、柔軟な勤務体系の変更や再雇用契約の調整、リスキリング、研修などやるべきことが多く、シニア人材の活用に消極的な企業も少なくありません。
シニア層の人材活用について、どこから着手すべきか迷う場合には、外部の専門家の活用が便利です。JOB HUB 顧問コンサルティングでは、多数の専門家の中から自社のニーズに合う知識や経験を持った専門家をご紹介しています。
経験豊富な外部人材が進め方からサポートするため、最短でシニア層が生涯にわたって意欲的に働ける環境が構築可能です。
シニア層の活用に課題を感じる際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。
▶人事制度の課題解決に向けた顧問活用 | JOB HUB 顧問コンサルティング
参考:
※参考①:厚生労働省|高年齢者雇用安定法の改正~「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止~
※参考②:厚生労働省|高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~
※参考③:厚生労働省|令和5年 高年齢労働者の労働災害発生状況、年齢別・男女別千人率(令和5年)(P3)
※参考④:厚生労働省|65歳超雇用推進助成金